男の子を連れたオヤジが店に入ってきた。
その店は、大衆酒場をちょっと高級にしたような店で、
新鮮な魚がちっとばかし魅力的で、しかも値段もソコソコの有り難い店。
ただ、小学生に見える男の子には、ちょっとばかり荷が重い感じがして、
こ〜いう店には不似合いな客に見えるのは事実だった。
オヤジは「生ビール!」と叫び、
男の子は負けずに大きな声で「お水ください!」と叫ぶ。
と同時に、店内に少しだけ穏やかな空気が流れた。
こういう店に入って、コーラとかジュースとかを子供が頼むのは当たり前で、
でもそれは、子供にとってはあまり飲ませたくない飲料でもあるから、
その子がお金のかからない水をちゃんとした言葉遣いで頼んだ事が、
廻りの大人から見ても、ほっとできるポイントになったのだろう。
オヤジは子供のために、鉄火丼の小さいヤツとみそ汁、
そして鶏の唐揚げとポテトサラダをオーダーする。
そして自分のために、刺身の盛り合わせを追加した。
どーやらオヤジは、あまり家に帰れない仕事をしているらしい。
子供に、学校の事であった事を尋ねながら、楽しそうにビールを干している。
子供はオヤジの刺身に手を出したり、唐揚げを美味しそうに食べたり・・と
マイペースで食事をとる。
本当はゆっくりと見ているヒマなんて無いのだが、
なんとなく微笑ましいくてついつい観察モードに入ってしまった。
自分にとっては、こんな風に父親と食事をするなんて事はなかったから、
ちょっとだけその子が羨ましく見えたのかも知れない。
店の中は白いワイシャツに紺のパンツを履くサラリーマンばかり。
明らかに異質な、ちょっと遊び人風にも見える風体のオヤジはカタギには見えず、
子供をどうやって育てているんだろうか?・・と気になったりもする。
と、そこに白いスーツを着た綺麗な女性が現れた。
オヤジばかりの店内が、ぱっと明るくなる。
彼女はニコニコ笑いながら、オヤジと子供の席に向かった。
「お待たせ〜
仕事押しちゃって」
「客のわがまま?」
「ちょっとトラブル。
で、手直ししてたら・・・こんな時間」
そっか・・・
待ち合わせしてたんだ・・・
押して・・・という言葉を使うから、同業者か(^_^;)
自分が育った時代に、こんなシーンはあり得なかった。
外食自体が希有な事だったし、子供を飲み屋に連れていける度胸も親には無かったろうし、
まして、父親のいない私には、父母の揃う食事自体、あり得ない。
彼女はビールをグイッとあおり、刺身に手を出しながら、
その日の仕事の事をオヤジに報告しつつ、笑顔を振りまいている。
そうしているウチに、男の子は眠そうに欠伸を1つ・・・
と、オヤジは食事を切り上げて、支払いに立った。
別になんて事のない、生活の1シーン。
飲み屋に似合わない家族連れなのに、
その子の礼儀の良さや振る舞いが違和感を感じさせないから、
彼らにとってはよくある食事の形なのだろう。
さぁ・・・
戻って、仕事・・・か(/--)/
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