1人で夜道を歩いていた。
街灯が少ない曲がりくねった階段を、
なるべく直線的に登っていく。
どっちにしろ汗は噴き出すのだが、
少しでも短い方が良い・・と思うのだ。
道の脇には古い洋館が並び、さび付いた鉄製のネットが
フェンスとして張られている。
やっと登り切った階段の頂上には、さらに緩やかな登りが続く坂道があった。
丘の上とは言え、この時期だ。
そよぐ風はなま暖かく湿っていて、汗を乾かす力は殆ど無い。
外仕事を終えた帰り道だからTシャツはじっとりと湿っていたが、
今かいた汗を吸ってさらに重くなるばかりだった。
「腹へったなぁ・・・」
と独り言。
そうだね、何か食べようか・・・と言ってくれる人も居ず、
とにかく我が家に帰って冷蔵庫の中のビールを飲み干したい・・としか思わなかった。
つま先上がりの坂道の頂点には3叉路があり、
そこを左に曲がると家はすぐだ。
だから少し小走りになるほど、足を速めた。
3叉路を左に曲がると、真っ直ぐな道の先に信号がある。
夜道に信号の光が反射し、歩いてくる人は綺麗にシルエットを作る。
私の目に入ったのは、痩せて少し肩を落とした男が1人、
こちらに向かって歩いてくるシルエットだった。
頭がひょこひょこと跳ねるように動き、
身長以上に長い影が私の方に向かって伸びている。
信号は丁度青で明るく、男の表情はまったく見えなかった。
暑いのに、何か羽織ってるぜ・・・・(^_^;)
俺はTシャツ一枚でも汗だくなのにな・・・
ど〜でもいい事を呟きながら、我が家に向かって重い足を持ち上げる。
その場でへたりこみたくなる誘惑に負けそうになりながらも、
どうにか玄関そばまでたどり着いた。
影を長く投げつけていた男がすれ違う。
黒っぽいパンツに白いワイシャツを着て、凄く薄いカーディガンを風になびかせ、
その男は私の左側をすり抜けた。
あれ・・・?
何か変だ・・・・??
なんとも言えない違和感を、その男から感じる。
だから、わざわざ振り返って、彼を観察してみた。
学生のような・・格好だな。
随分痩せてるようだが、暑くないのかな・・・?
え?
あれ??
腰の辺りで白いワイシャツを見せたり隠したりするカーディガンは、
細い肩を支点に振り子のようにはためいているが、
先ほどまで男だと思いこんでいた短く借り上げた頭が、あるべき所に無い・・・のだ。
そんな・・・ばかな?
もう一度、さらに身体を捻って注視する。
足も腰も肩もあるが・・・首が無い。
首が無い??
え?
うそ??
と思って足を止めたら、その男は肩をちょっとだけ揺すって
まるで笑ったかのような仕草を見せ・・・
そしてそのままスーっと消えてしまった。
どう見ても、その場にその男は居たのだ。
そして、どう見ても、その場でその男は消えてしまったのだ。
理解できないでしばしその場に立ちつくしてしたのだが、
次の瞬間、もの凄い勢いで悪寒が襲ってきた。
見ちゃった・・・・・よ
と思った時は、自宅に居た。
と言うか、次の瞬間、多分その場を走って逃げ、
自宅に駆け込んだ・・・って事らしい。
ガタガタと震えるような寒さと、なんとも言えない気持ち悪さだけが残り、
今見た、あり得ない瞬間の記憶が際限なく再生されてしまう。
そしてそれ以来、この時感じた気持ち悪さを感じると・・・・
見えちゃうように、なってしまった・・・・・ようだ(/--)/
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