「焼酎の店なんだけど行かない?」
「行かない」
「何でよ〜、美味いんだぜ?」
「焼酎は苦手なんだ」
「泡盛は?」
「泡盛も1合飲んだら寝るからねぇ」
「たまにはさぁ、ウィスキー以外のモノ、飲もうよ」
「苦手なんだってば」
「飲めないわけ?」
「飲めるけど」
「じゃ、いいじゃん」
「泡波があるなら、行ってもいいけどな」
「あるよ」
「え?」
「あるよ?」
「行く!」
甕仙人(かめせんにん)
045−662−1996
横浜市中区元浜町4ー28
17:00〜24:00
日曜定休
見事に焼酎の瓶&カメがバックバーに並ぶ店内は、
定員28名のこぢんまりとしたお洒落な店。
芋・米・麦・蕎麦・黒糖・泡盛・その他・・・・と書かれたメニューは
とにかくこれでもか・・・の焼酎ラインナップで、焼酎ファンではない私にははっきり言って、
どれが美味いのかよくわからなかったりする(爆)
しかし、有名な宝山系(芋)もあれば「山ねこ」(芋)や「山翡翠」(米)、
唯一飲める麦系としては「中々」もあって、あの「ダバダ火振り」(栗)まで揃ってる。
森伊蔵のボトルがトイレに飾ってあったりして、とにかく置いてある数が半端じゃなく、
その種類も珍しいモノからポピュラーなモノまで幅広い事がよくわかった。
「本当だ・・・、ある。」
「な?」
「以前飲んだ時は、ほんの少しだったんで、
ちゃんと飲んでみたかったんだ。」
「そんなに珍しいの?」
「そうさ・・・」
「泡波」は波照間島の泡盛で、島民が飲む量しか作らない(作れない?)という希少性と
素直で飲み心地も良く、柔らかな味わいが秀逸で、泡盛界ではまさに幻の酒と言っていい。
所詮は泡盛なのだが、独特の刺すような刺激は薄く、トロトロっとした舌触りが気持ち良く、
とにかくじっくり味わいたい・・・と思っているのだが、本当にこの酒に出会う事は難しかった。
なのに・・・・
この店には、ある(^_^)
「すみません、数が少ないので高くなっちゃってますが、
おすすめはこちらの100ml瓶です。」
「一杯だと何mlなの?」
「60です。」
「グラスで?」
「2000円です」
「瓶は?」
「2500円です。
瓶はお持ち帰りください」
高い・・・けど、グレートビンテージのモルトよりは遙かに安い。
この前飲んだムートンだって似たようなモノ。
それより、ここで泡波を飲まずして、何故この店に来たのか・・・・って事で
勧められるままに100ml瓶をオーダーさせていただいた。
「飲み方は?」
「・・・ロックで」
泡盛は、通常水割りで飲む。
自分のペースに合わせて水の量を調整しながら、
刺激を和らげつつ、気持ち良く飲む酒なのだ。
しかし、今日はあの「泡波」だ。
味わいがわからなくてはつまらないし時間をかけて飲みたいから、
敢えてロックで飲んでみる事にした。
(最初はストレートで味わえるし、氷が溶ければ水割りの味もわかるし(^_^))
店が用意してくれたのは、オールドファッショングラスに丸氷。
そこへ小瓶から泡波を注いでみると、
瓶半分でグラスはいっぱいになってしまった。
「楽しそうだね?」
「お〜」
「そんなにその酒、飲みたかった?」
「ずぅぅぅっと探してたんだけど、出会えなかった」
「そんなもんかね」
「あぁ。
で、お前何飲んでるの?」
「ラ・トマト」
「へ?」
「トマトの焼酎だよ」
「飲ませろ」
うわ・・・・甘い
ぐわぁ・・・・トマト臭い
「いけるだろ?」
「いけない」
「そうかな・・」
「これだったら鍛高譚(しそ焼酎)の方がいい」
「なんだよ、焼酎飲んでるんじゃん」
「飲めない、なんて言ってないぜ?
飲むと爆睡しちゃうから飲まないって言ってるのさ」
泡波は・・・・
実に優しかった。
南洋の明るい感じがする、それでいてどこか懐かしいような、
フワフワとした気持ちよさが、飲むほどに増していく。
「ここってさ、食い物も美味いんだよ。」
「へぇ」
「突き出しが2個ってのも嬉しいだろ?」
小鉢が二つ、お通しで出ているが、
器も味もなかなか楽しくて、ヤツが言うようにフードもいける事は、
容易に想像できた。
「でさ?
こんな台風の日に、じっくり飲んでると帰れなくなるよ?」
「大丈夫さ、これからバス乗って旅に出るんだ。」
「へ?」
「ちょっとさ・・・会いにさ・・・」
「女かよ?」
「明日休みになっちゃってさ、台風のおかげでキャンセル席が取れてさ・・」
「通行止めになったら意味ないじゃん」
「バスってのは、ちゃんと行ける道を走ってくれるんだよ」
「じゃ、こうやって飲んでちゃマズイだろ?」
「大丈夫さ、出発までの時間潰しだよ」
憧れの酒に酔った夜、
酒に会わせてくれたガイドは、旅人になった。
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