「このエリって娘は何なの?」
「会社の部下だよ」
「ふ・・・ん、じゃ、何でもないんだよね?」
「あぁ」
「消して」
「なんで?」
「残しておく必要でもあるの?」
「アドレスわかんなくなっちゃうじゃん」
「そんな事ないでしょ?」
「あるよ」
「そんなに大事なメールなの?」
「別に」
「じゃ、消して。
消さないなら見せて。」
「関係ないじゃん」
ぶちっと聞こえる位に怒りの頂点を迎えた彼女は、
彼の携帯を取り上げ、自分のトートバッグに投げ込んだ。
「何すんだよ」
「私に見られて困る事が書いてあるから、
見せないんでしょ?」
「そんな事無いよ。
取り上げなくたって・・」
「困らないなら良いでしょ。
今度メール来たら、私が見るから。」
ファミレスの中で、廻りの客が皆振り返るほどの声量で、喋る二人。
彼女は若さを隠すように黒いサマーニットのカーディガンを少しだらしなく羽織り、
彼は今時の若者よりも堅めの感じがする爽やかなファッションで、ちょっと見、良い男だった。
「すいません!ビール下さい!!」
「ちょっと、飲み過ぎじゃないの?」
「いいじゃん、休みの日なんだから。」
「ちょっとトイレ・・・、あぁ、まだ掃除してる」
「大丈夫だよ、強引に入っちゃえば大丈夫だよ」
「・・・・やだ。
あ!」
彼女のバッグの中で彼の携帯がメール着信する。
「メールだね?」
「え?」
「あなたの携帯、メール来てるよ」
「そうなの?」
「誰から?」
「わかるわけないじゃん。
見せてよ」
「いいわよ、でも私にも見せて。」
「なんで?」
「見られて困るメールが来るんだ。」
「そんな事ないよ。
見ればいいじゃん。」
「貴方が見せてよ。
あ・・・・また、メール。」
「誰だろ、急用なのかな。」
「見れば?」
「いいよ、別に。」
「ふ・・・ん。
ま、いいや、トイレ行ってくる」
彼女は本当にトイレに行きたいらしい。
清掃中の札を無視してトイレに入っていった。
・・・と、彼は突然動いた。
彼女のトートバッグの中から自分の携帯を探しだす。
立て続けに着信したメールの相手にレスを送り、
それから履歴を消そうとせわしなくキーを叩いている。
そこへ、ウェイターがビールを持ってきた。
「中ジョッキです」
「あぁ、どうも」
ガチャッと音がしてトイレのドアが開いた。
彼女だ・・・・
彼はまだ気付かない。
ビールを自分の前に置いて、携帯を操作しようとしてはじめて彼女の視線に気付き、
慌てて携帯をバッグに戻した
「何で携帯持ってたの?」
「いや、着信あったからさ。」
「へー」
「すいません、ビールください!」
「まだ飲むんだ。」
「飲むよ。」
「あ・・・また、着信よ。
見れば?」
「いい。」
彼は終始ニコニコしている。
彼女は、少し冷ややかに、少しキツく彼を見つめるが、
彼は届いたビールを美味しそうに干しながら、笑顔を崩さずにいる。
携帯のメール機能が発達し、会話するよりメールでやりとりする人も増え、
様々な人間模様がそんなツールによって演出されたりする。
見せられないメールなんてないでしょ?
と喋った彼女は、きっと見せられないメールなんて来ない人なんだろう。
でも、「見せる必要のないメール」や「見せる意味のないメール」は絶対あるはずで、
それを含めて「全部見せろ」と言っちゃうのはどうなのかな?とも思った。
(好きだから、全部知りたいのはわかるけどね(^_^;))
ファミレスで見えてしまったカップルの、聞きたくもない会話を聞かされて考える。
「便利な事=幸せ」とは限らないのかな・・・・と(/--)/
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