「あのね、話があるの」
「なに?」
「ちょっと早いけど借りたお金返すから、顔見せて」
「んだよ、忙しいんだよ」
「せっかく美女からお誘いしてるのに」
「わかったよ、若いの行かすから。」
「そうじゃなく、貴方の顔見たいの。
お願い、ちょっとでいいから。」
「わかったよ、じゃ、ちょっと待ってろ。」
台風が近づいているせいか午後の風は湿気を纏い、
縮緬のアロハがいつもより重そうに存在を主張する。
曇った空は少しだけ空の欠片を散らすが、
あと数時間もしないうちに雨が降るだろう・・という暗さを見せていた。
「ごめんね、忙しかったよね」
「あぁ。
で?」
事務所の傍の喫茶店に、女は居た。
ノースリーブの黒いチャイナドレスを着ている。
身長の半分はありそうな長い足や透き通るような白い腕を
黒は必要以上に妖艶さを与えながら強調するようで、
店内では一際目立つ存在になっていた。
「まずはコレ。
ありがとうございました。」
「あぁ。
一応決まりだから確認するぜ。」
「お願いします。」
細面に切れ長の目、長い髪は後ろにまとめ、
キッと正面を見据える女は、何か心に決めた事があるように
一瞬たりとも瞬きさえしない眼差しを向ける。
「きっちり200、確認したよ」
「お世話になりました」
「あぁ。
で?」
「うん、実は相談が。」
「また金?」
「うん。
じゃなくて・・・相談というよりお願いなの。」
「どうした?」
「お店に出てたら『2号にならないか?』って思いっきり誘われちゃって」
「毎度の事だろ?
女を売ってるんだから、あしらえば・・・・
ん?
そうか、いい男か?」
「私が借金してる金額、知ってるよね?」
「あぁ。
全部肩代わりしてやろうか?・・・
って前言ったぜ??」
「うん。
でも、返すあても無いし、
貴方とはそういう関係には・・・」
「そうだったな。
じゃ、良い奴なんだ?」
「違う・・・・
可哀想な人よ。」
すぅっ・・と女は息を吸った。
締まって見える黒を着ていても、
隠せない大きな胸が揺れる。
「子供欲しいんだって。」
「俺も欲しいぜ。」
「知ってる。」
「2号って・・・正妻に子供は?」
「いるよ。」
「へぇ・・・なんで?」
「別居してるんだって。」
「ありがちだな」
「面白いのは、同じマンションに別の部屋買って住んでるって事。」
「・・・で、2号か。
飽きたら捨てられるな」
「いいの、それは。
こっちも金出してもらえば、逃げちゃうから。」
「子供は?」
「作るわけないじゃん。
そんなのどうにでもなるって知ってんでしょ?」
「どうせなら、俺の子供生んでくれよ。
大事にするぜ」
「無理」
午後の喫茶店に、龍柄のアロハ男と黒チャイナ女。
端から見たらどう見えるだろう・・・・。
たまたま仕事仲間にギャラ打って、お茶をしていただけの事なんだが、
どうみても真っ当な仕事をしている二人には見えそうになくて、
ついそんな想像をしてしまった。
そりゃそうだろ・・・
変てこで釣り合わないカップルが、
お茶しながら金のやりとりして・・・
でもさ・・・・
いくら男とデートだから好きな服着たいって言っても、
いきなり仕事場に黒チャイナで現れるとは・・・なぁ・・・・・・(^_^;)
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