「最近忙しいんだね」
「うん,ぼろぼろだよ」
「去年よりはマシな顔してるよ?」
「物理的には,少しだけ楽になったけど,
その分精神的な苦痛が増えてさ・・・」
「気にしすぎなんだよ」
「いや・・・そんな事は」
「相変わらずだね」
「え?」
「そうやって最初に『いやっ』って言うの」
「あれ?
そんなはずは・・・・」
「昔を思い出してて,思わず出た?」
「かも」
「でもさ,随分優しい顔するようになったね。」
「そうかな。
そう見えるなら,嬉しいな。
歳取っただけの事だと思うけど。」
「俺の事忘れてたでしょ?」
「いや・・・」
「あはは,忘れてたね」
「・・・ごめん,忘れてた」
「すぐ解るよ,若尾氏が『いやっ』て言う言い方で」
「ごめんよ」
「いいんだ。
忘れてもらった方が嬉しい。
で,こうやって盆の時,ちらっと顔出して思い出してもらえば」
「そうか,お盆だね」
「うん」
「やぱりさ,馬に乗ってくるの?」
「俺は710(日産バイオレット)に乗ってきたよ」
「本当?」
「うん,で,帰りも710で帰る。」
「普通は,帰りはゆっくり帰るんじゃないの?」
「ぎりぎりまで居て,ゲートが閉まる直前に着けばいいじゃん」
「スーパーオスカーで照らしたら,皆驚いちゃうんじゃないの?」
「平気平気,誰も居なくなった道を飛ばすにはちょうどいいよ。
でも・・・」
「?」
「リングギア625(デファレンシャルギア比4.625 ノーマルよりスピードが出ない)
のままだから,時間がかかっちゃう」
「よく乗ってるね」
「86もまだ持ってるよ」
「懐かしいねぇ」
「そろそろさ・・・無理するのやめたら?」
「え?」
「何でも全部自分のせいって思ってるでしょ?」
「・・・」
「誰かが失敗しても,自分が気を回してれば防げたって思ったり,
自分が頭下げておけば済むって考えてる。」
「そう・・かも」
「悪い癖だよ。
誰も喜んでない。」
「仕方ないじゃん,性分なんだから。」
「だからさ・・・疲れるんだよ。
解ってもらうのにも,時間がかかるんだよ。」
「自分がされて嫌な事は,他人にはできない。」
「楽だしね」
「う・・・ん」
「ちょっとさ,肩の力抜きなよ。
見てると辛いよ。」
「わかってるんだけどねぇ・・・」
「もうちょっと楽になってくれないと,
思い出してもらえないし」
「あ・・・ごめん」
「あはは
そんなつもりで言ったんじゃない。
若尾氏が思いだしてくれたから,こうやって話できるんだ。
嬉しかったんだ」
「うん」
「じゃ,ナオの所に帰るね。」
「うん・・って,こうやって話してるの?」
「あはは,無理。
あいつには,僕の声は届かないみたい。
でも,居る事は解ってるみたいだから・・・いい」
「そうか。」
「また,飲もうね。
いきなり会社に来て,ごめんね」
「え?
会社に居たの智?」
「そう,気付いてたじゃん」
「白いモヤッとした物にしか見えなかったよ」
「知ってる。
だから,ちゃんと顔見せに来たんだ」
「会えて嬉しいよ」
「また,来るね」
「気をつけて」
「何を?」
「・・・そうか」
「うん。
またね」
偶然,智成と私が写った写真が出てきた。
最後に彼と会って,一緒に仕事した日に仲間が撮ってくれた写真だ。
優しい顔,そして少し太って・・・・
変わらない笑顔で・・・・
3年も過ぎてしまったのに,
何も変わらない彼。
あっちで,昔乗り回していた車に乗っている事が解って,
ほんの少しだけ,安堵した。
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