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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

飲み過ぎ2

「お客さん、ワインは飲みませんか?」

「飲めない酒はスピリタス位で・・・
  でも、麦以外の酒は飲むと寝ちゃうんだよね」

「ちょっといつもより安く出してるワインがあるんですけど」

「何?
  え?バロン・フィリップ??」

「ハウスワインで入れたんですど。
  こっちのカデもいいですよ」


ヘロヘロに酔っぱらって行った先で出会ったロートシルト(ロスチャイルド)

酔い覚ましに飲むのはモルトが一番だと思っているのに、
予想していない店で、まともなボルドーに出会うとは思わなかった。


「マニアックって言ってたけど、
  モルトはスタンダードしかないからなんだよ・・って思ってたのに」

「違うだろ?」

「まいった。」

「どこがマニアックなんだよ、
  お前らだけ楽しむなよぉ・・・」


酒飲みは2種類居る。
量を求めるヤツと質を求めるヤツ。

前者はアルコールなら何でも飲める幅の広さと、
山ほど飲んでも悪酔いしない頑強な肝臓を持っていて、
それこそ水のようにウィスキーを飲んでも平気な顔をしてたりするが、
後者は大概が酒に弱く、上質な物のみ気持ち良く酔う事に気付いているから、
一杯5000円の酒でも他人が一杯1000円の酒を5杯飲む間に
じっくりたっぷり楽しむために平気で口をつけたりするものだ。

そして私は、間違いなく後者の部類に属する。
(異論反論は受け付けません)


「じゃ、ムートン・カデのルージュを」

「ボルドーはお好ですか?」

「ボルドーはコストパフォーマンスが悪いから、あまり好きじゃないですね」

「確かにブルゴーニュの方が飲みやすい物が
  リーズナブルに出回ってるかも知れませんね」

「何故、ムートン・カデやバロン・フィリップを?」

「実は、常連のお客さんがどうしても
  シャトー・ムートン・ロートシルトを飲みたいと仰って」

「え?」

「でも、そんなワインを一本売りはできないので」

「えぇ」

「で、ムートンフェアにしてグラス売りをするために、カデとバロンを揃えたんです」

「あの・・・ムートンをグラス売り?
  してるの??」

「はい」

「今、あるの?」

「あります」

「いくら??」

「3000円」

「飲みます」

「ちょっと少なめですけどいいですか」

「もちろん、何年ですか?」

「1997です」

「しぶい・・・」

「いいとこ、ついてるでしょ?」


おそろしくマニアックだ・・という事がよくわかった。

1997年は夏が猛暑で乾燥していたため、葡萄の生育が遅れてしまった年。

酸味の少ないワインになったために短期熟成タイプとなり評価もあまり高くなく、
ビンテージチャートもあまり良い点を付けてないのだが・・・・

ムートンはポイヤック産で、ボルドー中でもまだ気候がよかったため、
ある意味飲み頃を迎え始めた・・と言ってもいいかも知れない。
(ひょっとしたら20年間の保存には耐えないかもしれない)


売値としては20000円〜30000円前後のワインだから、
レストランで頼もうものならバカヤローな値段が付くのは必至。

しかもボトル売りが基本になるのもまた当然の事。

ウィスキーのようにある程度保存が利くものならまだいいが、
ワインは開けたらあまり時間を置かずに飲むしかないわけで・・・・

だから店としても、話巧みにグラス売りで商売しちゃうのだろうが・・・・
客としてはこんな珍しいワインを飲めるなら贅沢を言う気は無い。
(酔っぱらってない方が良かったが、こんなチャンスは滅多にないわけで)


で、飲んでみた。

最初はモルトに似たセメダインのような匂いが立ち、続いて革のような香りが立つ。
一口目はちょっとスパイシーでキックがあり、葡萄と言うよりちょっとベリーがかった味と
ちょっと焦げたカラメル、そして想像以上にしっかりとした酸味が訪れた。

なのに、渋み等は一切感じられない・・・


「どうです?」

「聞くの野暮です」

「いいでしょ」

「若いと思ったのに、充分に楽しい」


そんな会話を続けつつ、ワインの変化を探っていると、
甘さとオーク樽が持つ香りが立ちはじめ、すっきりとした葡萄らしい味がどんどん豊になっていく。


「常々思ってるんだけど、ワインの変化の楽しみを知ってる人は
  絶対モルトにもハマルと思うんだよね」

「実際、ワインファンの方がウィスキーマニアにシフトする事もありますよ」

「私も実は、その口で」


良い酒は、空気と触れ合う事で、様々な顔を見せてくれる事が多い。
その変化を楽しむ余裕と知識があれば、酒の違う楽しみ方ができるチャンスも多くなる。

ワインはそれだけを飲んで楽しむだけじゃなく、料理などに合わせて楽しむ飲み物でもあるが、
基本はその変化を十二分に味わう事が楽しさだと言ってもいい。


廻りを見る事もなくその場の空気になじむ事もなく、一気に自己主張だけするような人間は、
偉大なシャトーのワインを注いだらそのまま一気のみする行為と似ている。

幸せな事にこの店では、ブランドで高級ワインを頼んでガブ飲みするような客はいないようで、
久々に余韻をたっぷり味わう幸せを感じる事ができた。

しかし・・・・
飲み過ぎて連れられて来たので、
その店がどこだった記憶に無かったりする(^_^;)

 
 
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