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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

ジャックス

「肉食べたいな」

「めずらしいじゃん。」

「最近野菜か魚なんで、無性に肉が食べたくなるのさ」

「そんなに栄養つけてど〜すんの?」

「疲れてるのかなぁ」

「そんなに栄養つけてどーすんのよ?」

「何をするにもまずは体力でしょ?」

「何をする気なの?」


何をするって・・・
カップルで肉を食うのは、色々な意味があるでしょ?
っと言いそうになってやめた。

そういう場合の肉と言えば「焼肉」であって、
今日食べたいのは、まさに肉の塊なのだ。

決して揚げ物ではなく、薄く切って湯通ししたり
出汁で煮込んだりするような物でもなく、
サイコロのような形をしている物でもない。

がっちりとした塊を、網か鉄板でジュウジュウと焼いて、
豪快にガシガシと食べたいのだ!


「ちょっとは合わせてくれたっていいのにさ」

「何を?」

「カップルで居る時は、会話も楽しむもんでしょ?」

「楽しむねぇ・・・」


どう言っても、のってくれないらしい(・_・、)


「で、何食べるの?」

「だから肉」

「そうじゃなくて、何処へ行くの?」

「豪快な焼き方をするステーキ屋・・かな。」

「ステーキかぁ・・・
  美味しいのがいいなぁ」

「不満ですか?」

「脂っこいのは嫌だし、大きくても固いのも嫌だし・・・」

「脂っこくないステーキねぇ・・・」


そう言われて閃いた。


「そうだ!
  ジャックスに行こう!!」


「ジャックス」
045-621-4379
横浜市中区本牧間門43-14
17:00〜22:30
月曜定休(祝日の場合は翌日休)


ステーキがまだビフテキと呼ばれていた頃から、
この店は営業していた。

創業は昭和33年。
最初の店の名前は「トーク・オブ・ザ・タウン」。

店は中華街にあり、客は米軍関係や外国人が多かったが、
米兵の喧嘩でその店は焼失してしまったとか。
そして昭和35年に「ジャックス」を同じ場所に開いた。

昭和30年代と言えば横浜公園も一部米軍に占領されていた時代。

庶民にとって肉を食べる事自体が贅沢な事だったから、
そんな時代にわざわざ外国のような街へ出かけて、
高価な「ビフテキ」を食べるなんて夢のまた夢の事だったろう。

だから、この店でニューヨークカットを食べるのは
一種のステイタスになっていた。


「ご無沙汰してます。」

「いやぁ、よく来てくれました。」

「あいかわらず元気そうで・・・」


ジャックは79歳という高齢を感じさせない姿で、
相変わらずグリル立っていた。

現役でいる事こそが若さの秘訣、と言うべきか。
とにかく、彼の時間はまるで止まっているかのように見える。


「何にしますか?」

「ミニサーロイン(2500円)で」

「今日はね、どうしても食べて欲しい肉があるんですよ。」

「?」

「ニューヨークカット(7000円)なんですが」

「さすがに300グラムはもう無理ですよ」

「一枚を二人で分けて食べませんか?」


え?
そんな事できるの?


「実はミニサーロイン(150グラム)も、シザリングステーキ(230グラム)も
  ニューヨークカット(300グラム)も全部肉が違うんです。」

「へぇ・・・
  大きさの違いだけじゃなかったんですね」

「そうなんです。
  それで、今日は特にいい肉があるんで、
  食べて欲しいんですよ」

「いただきます」


そうやって勧められたら、断る理由はない。
と言うか、わざわざそう言ってくれる物に外れなんてあるワケはないのだ。


「じゃ、焼きますね」


飛びっきりの笑顔で、ジャックはデカイ肉をグリルの上にのせた。

ジャックスは炭火の上に網を置くスタイルのグリルを使っている。
いわゆるバーベキュースタイルだ。
これだけは店が変わってもずぅっとそのままで、
それこそがジャックスの存在価値でもあると言っていい。

炙られた肉から脂が落ち適度にスモーキーになりながら口当たりも軽くなる・・・・
というヘルシーなステーキになるのだが、切った時の大きさに比べて焼き上がりが
随分と小さくなってしまうのは仕方ない。

だが、ご安心あれ。
以前にも書いたが、ジャックスのステーキは表示している重さより絶対大きいのだ。


「どうぞ」

とジャックがサーブしてくれたニューヨークカットは、
見事なミディアム・レアで焼き上がり、その香りは食欲を強烈に刺激した。

一皿を二人で分けるのではなく、
一枚の肉を半分にして二人分のセットになっている。

皮ごと食べると美味しいベイクドポテトとオニオンソテーは
昔からのまま。

味付けも塩・胡椒の下味に仕上げのガーリックバター&醤油のハーモニーが
昭和の時代を背負うが如き「ビフテキ」の味を演出する。

とにかくナイフで切った肉を頬張ってみると・・・・

え?
何これ??

っと驚くほど、ジューシーでしつこくなく、
どっしりとして甘みさえ感じるような肉の旨味が、
口の中いっぱいに広がった。


「美味い」

「何これ?」

「なんか別物だね」


自然にそんな会話が始まるほど、
イメージしていた味を凌駕していたのだ。

鉄板焼きのステーキとは全然違うちょっとゴツイ感じの味わいは、
それに慣れている人には違う食べ物と認識させるかも知れない。

150グラムで15000円とかのプライスをつけるステーキに比べれば、
味は確かに劣るかもしれない。

だが、ちょっと待ってくれ。
国産牛を使った300グラムのステーキがコースで7000円なのだ。

そしてそいつは、絶妙な焼き加減と味付けで、
食べた瞬間に「美味い」と叫ばせるだけの力を持っているのだ。


「実は、昔ニューヨークカットを食べていたお客様が、
  食べたいけど量が無理とよく仰るので、
  お二人様の場合、ニューヨークカットのコースで肉だけ
  シェアしていただくセットを、お勧めしているんです。」


ジャックの言う事は良く解る。

300グラムのステーキを食べきれる人は、昔からの常連にはそう多く無いだろう。
あの肉を食べたいと思う気持ちは残っていて、ジャックも食べさせたいと思っていれば、
そういう提案は自然に出てくるはずなのだ。

芝エビのカクテル・サラダ・ハーフニューヨークカットステーキ・ライス・コーヒーで
二人分が10500円(税込)

ステーキ専門店で食べる価格としては、コストパフォーマンスはかなりのもの。



「さぁ、がっつり食ったし」

「食ったし?」

「行くか。」

「どこへ?」

「決まってるでしょ?」

「どこ??」

「職場だよ」

「まだ仕事残ってんの?
  信じられない」

「しょうがないだろ・・・・
  締切があるんだからさ」

「どうせ私は、メシカノ(食事を一緒に楽しむだけの彼女)だしね」


嫌いなヤツと一緒に食事はしないんだけどねぇ・・・・

 
 
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