「あぁ、気になってたよ。
でもさ、そうそう滅多に行けないじゃん。」
「だからありがたくも呼んでやってんだろ?」
「突然過ぎるんだよ」
「嫌ならいいんだぜ」
「すぐ行くよ」
ヤツから突然電話がかかってきた。
日曜の午前中、まだ微睡んでいる時間帯に、
非常識じゃねーか・・と思いつつ出ると
「今、築地の『大和寿司』で並んでんだけどさ」
といきなり申告する。
だいわずし・・・・・?
だいわ・・・・?
つきじ・・・???
「え?
おい??
なんで???」
「いつか寿司大が良いって言ってじゃんか。
だから築地に来たんだけどさぁ。
余裕で2時間以上待つ・・・って言われたんで、
すぐ側の『大和寿司』に並んだんだよぉ。
だけどさぁ・・・
こっちも1時間半は待たなくちゃいけなくてさぁ・・・」
「だから?」
「お前、『寿司大』と『大和寿司』、どっちが美味いかって
気にしてたじゃんかよぉ」
ヤツはどうやら順番待ちに飽きて電話してきたらしい。
「俺はどっちも食ってないから、どっちが美味いなんてわかんねぇけどさぁ」
「両方食わなくちゃわからないさ」
「お前は食ったのか?」
「食ってないな」
「せっかく並んでんだから今から来いよ。
お前、気になってんだろぉ??」
店に入る前に辿り着けたら、一緒に寿司を食おう・・というありがたい申し出を
断れるほど食い意地を捨て去る事なんてできやしない。
奇跡的なスピードで準備をすると、全力疾走で駅まで走った。
昼間とは言え、春の交通安全運動週間中に、無謀な運転なんてする気もなく、
寿司屋で飲めない寂しさを我慢するほど大人でもないのだ。
うわ・・・・
と驚くほど、人が多い。
以前来た時は寒かったからかもしれないが、
この日は他の寿司屋も行列ができてる。
大和寿司へ向かうと、ここは比べ物にならない位、
見事な列ができていた。
ヤツの姿を捜すと、なにやら女性と親しげに話している。
なんだよ、見せつけモードかよ・・・・
と思いつつ手を振ると、悪びれずにヤツは手を振り返した。
「大和寿司」
03-3547-6807
中央区築地5−2−1
5:30〜13:30
「どうにか間に合ったな」
「誰?」
「あ、たまたま一緒に並んだだけの彼女」
「こんにちは〜」
つまらん、そういうオチかよ(^_^;)
相変わらず軽いヤツだな・・・と思いつつ、
かなり図々しくも、列のほぼ先頭に潜り込んだ。
大和寿司は普通の飲食店の倍のスペースを持つ。
いや、もうちょっと正確にいえば、2軒の隣り合った寿司屋が
同じ経営で営業している・・・・と言うべきかも知れない。
どっちの店に入るかはその日の運に任せるしかないが、
若手の板前が揃う店と板長が立つ店の違いは、どれくらいあるのだろう。
大して待たずに板長の前に座れ、ビールを2本頼んでから、
優しい笑顔の板長に「おまかせ(3150円)で」とオーダーした。
「普段は倒れちゃう人も出るくらいなんだけど、
今日は早めに入れてよかったねぇ」
「今日は空いてるんですか?」
「ちょっとだけね。
せっかく1時間半も待ったんだから、
慌てないでゆっくり食べてね」
と軽く会話を交わした後に
最初の1カン目が出てきた。
大トロ
築地の寿司屋らしく、しっかり煮きりが塗ってある。
脂がのりすぎて
少し崩れそうな切り身だったが、
口の中に入れると、その姿が語るように綺麗に溶けた。
「美味い」
反射的に声がでる。
・・・・そう、これは寿司屋に入った時の鉄則で、
そうやって板前をのせていくのは、美味しく食べるコツの一つでもある。
しかし・・・・
正直言って、以前食べた「寿司大」のマグロの凄さには敵わない。
上質なマグロが持つ、バターのような脂の味わいと
牛肉にも似た味わいと溶け方のハーモニーが、
シャリの酢の強さと煮きりの多さで隠されているのだ。
心の中で「残念!」叫びながら次を待つと、
これでもかという量の・・・・
雲丹
甘く豊かな香りの雲丹は、
やはり多めのシャリや酢の強さに、姿を露わにできないでいた。
でも・・・・・美味い! のだ。
続いて出たのは
車海老(活)
身が固くならずに食べられるのは、少なからず仕事をしているのだと思う。
そしてコイツの味は、久々に美味い車海老を食った・・という気分にしてくれた。
鉄火巻き
墨烏賊
中トロ
穴子
玉子
立て続けにテンポ良く出てくる寿司。
鉄火巻きは普通で、墨烏賊は抜群の状態で、中トロは素晴らしい味でありながら素っ気なく
穴子はふわふわの煮方で申し分無い・・・・
だが、素材の味を隠す程の煮きり、つめ、シャリの味などが、
なんとなく残念な気持ちを育ててしまう。
「これで終了です」
と板長が伝えてくれる。
7カン+巻物で3150円か・・・・
と思ったのは、やっぱり物足りなさのなせるワザ。
そう言えば、一個も白身が出てないじゃん。
食い足りない私達は、
ケースの中で「食べて」!と叫んでいるネタを片っ端からオーダーした。
石鯛
ヒラメ
コハダ
鳥貝
ほたて
中トロ
コハダは秀逸、鳥貝も抜群、ほたても素晴らしかったが・・・・
何かバランスの悪さを感じて仕方ない。
「なんかさ・・・・物足りない感じがしないか?」
「そうだなぁ
腹はいっぱいなんだけどなぁ」
「やっぱりなぁ」
「まだ食えるのか?」
「いや、食えないんだけどさ。
なんか魚を山ほど食べた気がしないんだよなぁ・・・」
そう言っていて、気がついた。
大和寿司の1カンはシャリが大きかったのだ。
だから、魚よりシャリを食った気分になってしまったのだろう。
「あのさぁ・・・シャリ、デカ目だったと思わないか?」
「ネタもでかかったけどな・・・・・」
「でも、物足りないだろ?」
「あぁ」
「そこにさぁ・・・
行列のできる丼屋があるんだけどさぁ」
「食うのか?」
「食わないのか?」
「上だけだったら、食ってもいいなぁ」
「な?
シャリがデカかったんだって」
私達の格好は、思いっきり食いそうな野郎ども・・・と見えたはず。
だからそんなバランスで握ってくれたのか、
それともあの店の流儀としてそのバランスで握ったのかは、解らない。
だが、握りはネタのシャリのバランスが大切な物。
その点で、ちゃんと注文すれば良かったのだが、
腹が空き過ぎて、食べる事のみに走り過ぎてしまったのだ。
だから板長も・・・・・・
二人で支払った金額は1万3千円を超えた。
そしてこの価格は、はっきり言って高いと思った。
何故なら、「寿司大」で食べた時の方が、
バラエティの良さと量の多さと、ネタの美味さに長けていて、
そしてバランスの良さに感動すら覚えたのに、
そこまでの金額にならなかったからだ。
勿論、私自身の舌が肥えたり、食べる時期の違いがあるから、
同じ時期に食べ比べをして感じた事で判断すべき事。
だから、優劣はつけたくない。
でもね・・・・
大トロ・中トロ・鉄火巻き・・・とマグロを連ね白身魚を出さないセット物の組み立てが、
なんとなく板前との対話に欠けると感じさせた事は事実なのだ。
次回、魚が美味い時期にもう一回訪れよう・・・という気に、
なれるかなぁ・・・・・(/--)/
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