「あなたと一緒にいると、凄く緊張するのよ」
「え?
どうして?」
「何か食べよう・・としても、下手な所へ連れていけないし」
ちょっと待ってくれ。
私は、おおよそどんな物でも、不味くて食えないという風に感じる事が無いほど、
味の許容範囲は広い・・・と自負しているんだ。
なのに何故、彼女はそう言うのだろう?
「しょうがなくて、とりあえずお店に入って、
ちゃんと全部食べきって・・・・
で、店を出てから『美味しくなかったね』って言うのよ」
「そうかなぁ・・・
俺はコストパフォーマンスが悪いと腹を立てるけど、
値段に見合った味だったら文句なんて言わないけどなぁ・・・」
「いいえ。
後でボソッと文句言う」
それは気付かなかった。
いや、そうじゃない。
好きな人と一緒にする食事だからこそ、美味しい物を食べたいと思うし、
それが期待はずれだと、彼女に対して申し訳ない気持ちになるから・・・
つい『美味しくなかった』とつぶやいてしまうのだろう(記憶に無いが)
「あなたといると、いつも疲れた。
何か気にくわない事があるんじゃないか・・・
望まない状況に置いてないか・・・
いつもそうやって考えてた」
「俺も、いつも君がつまらない顔をしないように、
どうしたらいいか・・と気を遣ってたよ」
「だから、すれ違ったまま・・・こうなったんでしょ?」
「そうかな?」
「お互いがお互いに気を遣いすぎて疲れるなんて・・・
合わないって証明じゃないの?」
ちょっとでも相手が楽で、楽しめるように考える事が、
結果的に相手を追い込むなんて、考えもしなかった。
ただ、考え方や生き方が似ている人とは、
同じような気の遣い方をしてしまう・・・という事は理解できた。
「で、今は気を遣ってるの?」
「もちろん」
「申し訳ありません。
でもね、
君と一緒にする食事は美味しいんだよ。」
「私も。
美味しい所へ連れてってくれるからね」
あれ?
作戦・・・・なの?
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