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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

うるさい客

「すいません。
  このカードのポイントを使って買い物ができるんですよね?」

「えぇ。
  このポイントですと20000円までお使いになれます。」

「そうなんだ。
  じゃ、このスカーフをお願いしても?」

「はい、ありがとうございます。
  こちらですと、消費税入れて・・19635円となります。」

「お釣りは?」

「申し訳ございません。
  5000円単位の商品券との引き替えになりますので、端数はお返しできません。
  よろしければ、15000円分だけ商品券をお使いになり、
  残りの4635円お支払いいただけば、来年までポイントも持ち越せますが?」

「ポイントって一年しか残らないんでしたっけ?」

「はい。」

「そうか・・・どうする?」

「いいじゃない、ポイント使えば。」

「そうだな・・・
  でもさ、もったいないし」

「あまりここじゃ、買い物しないでしょ?」

「うん・・
  いや、そんな事もないよ」

「そう?」

「あの・・、どういたしましょう?」

「じゃぁ・・・、2万使っちゃってください」

「かしこまりました」


会社の傍に有るバーニーズニューヨークに、
友人へのプレゼントを買いに出かけた時の事。

寒くなる前に手袋を・・・と思って訪れたコーナーで、
こんなやり取りがされていた。


「あの、お客様。
  何かお探しでしょうか?」

「はい。
  女性の手袋を探しているのですが、
  色々目移りしちゃって・・」


店員の目を見てニッコリと微笑むと、
先ほどの客とのやり取りに疲れの色を見せていた彼女の顔が
パッと明るく光のがよくわかった。


店の売る物が高級になればなるほど、
客は余裕を見せつけないと人間扱いされない。

見るだけの客が多ければ多いほど、
本当に買いに来た客を大事にするのは商売の基本と言ってもいいだろうし、
店としてもターゲット層以外に売りたくないから、扱いに区別が出るのは当然だ。

ルイ・ヴィトンのように万人受けするブランドだと、
特に「今日は買いに来た」というアピールをしない限り、客として見ない傾向が強くなる。


「まだ秋物も多いのですが、
  この冬に向けてインナーがファーやカシミアの物も出てきています。」

「女性の手袋なんて買った事がないので、サイズが心配なんです」

「女性物の場合は、殆ど7だけです。」

「ワンサイズじゃ、サイズは考えても仕方がないですね」

「革製品とニットがありますが」


さっきのカップルは、どうみても休日の夫婦・・といったファッションで、
上品とは言えなくともバーニーズで買い物をする客としては平均的な感じを持っていた。

が、私は相変わらずの汚いナリ。
ジーンズにカットオフでは、この店には少し異質にさえ見えただろう。

しかし、日曜という事で適度に客が集中しているのにも関わらず
店員は嫌な顔ひとつせず、私への応対を丁寧に行ってくれた。


「じゃぁ、コレにします。」

「プレゼント用ですか?」

「はい。
  包んでいただけると嬉しいのですが。」

「わかりました。
  お支払いは?」

「あ、カードで」


この瞬間は面白い。

汚いナリをした私が取り出す財布(領収書で山ほど膨れたりしているが)には、
一通りのクレジットカードが入っている。

そして、こういった店の場合はそのカードのランクや数で態度を変える事が多いため、
敢えてクレジットカードで買い物をして、その反応を見る事が多いのだ。(趣味が悪いが)

私の場合ファッションとはかけ離れた感じがするからか、特に態度の変化を大きく見せてもらえる
チャンスが多く、如何に人間がファッションやら持ち物で他人を計っているかが
よくわかって面白かったりするのだが・・・・

案の定、店員の顔つきがコロッと変わるのがわかった。

だが、すでに十分丁寧な応対を受けていたから、あまり変化は無い。


「それではこちらでしばらくお休みください。」


と店内のイスに案内されたが、例のカップルが隣に座っていた。


「良い物があってよかったね。」

「そうね、嬉しいわ」

「ポイントで買えるってうれしいね。
  お釣りが返ってこないのはもったいないけど。」

「いいじゃない。
  ポイント貯めるために買い物したんじゃないでしょ?」

「そうだけどさ。
  結構な額の買い物してんだからね〜」

「自分の物ばっかりでしょ?」


すぐ隣だから、聞くとは無しに聞いていたが、
相変わらず商品券の話をしつこく繰り返している。

よっぽど3百円足らずの損が悔しいのだろうが、聞かされる方がウンザリだ。
それにしても、どうして大きい声で同じ話を繰り返すのだろう?


「しかしね、考えたら凄いよね」

「?」

「10万円で5千円の商品券でしょ?
  2万円あるって事は、40万円買い物したって事だよ?」

「そうね〜」

「もしかして俺達って、上客?」


バカ言っちゃいけない。
上客は、たかだか数百円でケチケチ言わないよ。

周りに聞こえるように大きな声で語る話でもないし、
吊しのジャケットで20万オーバーの物が揃うような店では、
40万の買い物だって大した事じゃない。

たくさんの買い物ができる事が幸せなんだろうが、
その価値観を信じ切って聞こえよがし同じような話を何度も繰り返すのは、
ハッキリ言って「下品」以外の何物でもない。


あ・・・そうか!


この店で40万も買い物をしたって事を、
周りの庶民達に吹聴したかったのか・・・・コイツ

 
 
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