会社とは勝手なところだ。
儲けが出ない事はしないのが原則だ。
そしてその論理の中で社員個人の考えなど、意味を持つ余地すらない。
そんな原則を知っていても、物理的に二人分の仕事を任されてしまうと、
その理不尽さに穏やかな応対ができる余裕は消し飛んでしまうらしい。
番組制作のパートナーとして頑張っていた部下が、1日付けで異動となった。
そしてそれはすぐ、一人前のディレクターの倍量の仕事がのしかかる現実を招いた。
同時に3週分の仕事が進行し、休みも睡眠時間もその処理に取られるようになると、
だんだん生理的な欲求に精神が支配されだしてしまう。
ちょっとでも長く寝ていたい。
何もしたくない。
仕事の事は考えたくない・・・
そうやっていつも心の中は休息時間を求めるようになっていった。
「悪いんだが、ちょっと手伝ってくれないか?」
「はい。
何でしょうか?」
「下期の数字の事で解説をして欲しいんだ。
それと後任の部長にもう少し指導をしてほしいんだよ。」
「お言葉ですが、社長、
すでに引継書を渡し、何度となく指導もしています。」
「それだけじゃ足りないから、こうやって頼んでるんじゃないか」
「わかりました。
で、いかがいたしましょうか?」
「どこかで時間を作って、ちゃんと話をしてくれよ」
「お言葉ですが、いつ、私がその時間を取れるのでしょう?
私は、休んでいません。
夜も寝ていません。
今日も朝1時間ほど横になっただけです。」
「そんな事、わかってるよ。
だが、君にしっかりみてもらわないと困るんだ」
休日として申告した日数が2日の出勤表は、
私が管理職のため、勤務時間は記入されていない。
だから、家に帰らず、寝ないで仕事をしていても、
その勤務時間の長さには気付けないのはコッチも理解できるのだ。
しかし・・・
一人前の仕事量の倍を担当させ、まだまだ半人前のアシスタント1人とチームを組ましている張本人は、
さらに仕事をしろ・・・と半分怒りながら命令してしまう・・・経営の鬼だった。
こんな時、何故か私はファイトが湧いてくる。
できない量を与えられても、それを涼しい顔をしてこなしてやる・・と思うのだ。
だがそれは、ある意味で間違った意地っ張りかも知れない・・とも、最近は思う。
自分自身が消耗してしまったら、一度きりの人生が勿体ない・・・
自分を守れるのは自分しかいないから、自分を殺すのは意味がないかも知れない・・・からだ。
いずれにしろ、一つだけ理解した。
そろそろ自分のために生きても良い時期が来た・・という事を。
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