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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

博徒

私には博才がない。
賭け事は一切やらないし、やりたくもない。

興味が無いわけじゃないのだが、
パチンコなんぞはお金がそのまま飛んで消えてしまうように見えて、
勿体なくて玉を打つ気力さえ削がれてしまうのだ。

ソレに加えてパチンコ屋の騒音とヤニ臭さは我慢ができず、
どう頑張っても楽しい気分に自分を持っていけない・・・

ところが友人にはその手の物が得意な人間が多い。

十分それで暮らしていけるほど稼ぐようで、
「仕事が入らない時はコッチで稼ぐ」と豪語し実践していたりする。

だが、賭けに近い事は日常茶飯事に行っている。

相対速度差が3倍あるような走り方をする時も、
終了時刻が決まっているのに無理なスケジュールしか組めないで収録する時も・・・
(業界用語で『ケツカッチン』=終了時刻が決まっている)


今日は、まだ仕事の感が戻りきってきないのに、1日で2週分の収録をした。
しかも片方が知事が出演するから、大変だ。

多忙を極める行政の長からもらえる時間はたったの1時間半。

番組自体が29分あるから、全体のリハーサルなどやっている暇は無い。
極力簡単に打合せをし、少しだけ喋ってもらったら後はすぐさま収録に入る。
(そうしないと、表現間違いでテープが止まったら撮り直す時間がなくなる)


「これって、ギャンブルだよな・・・」

「あのタレントが脱線したら終わりだね」
「なんであんなの呼んできたんだよ?」

「しょうがないよ。
  知事サイドからの要請で決まったんだ。」

「脱線して自分のペースに持っていくのがヤツの芸風だろ?
  後編(後で編集して完成させる事)だって知ってるから、はじけるぜ〜」

「だから、不吉な事を言わないように。
  ホントになったらたまらんぜ」


私の制作している番組は、通常は生放送と同じように制作し、
どうしても直さなければいけない箇所があった時だけ撮り直しをするスタイルだ。

本当なら生放送でやりたいくらいなのだが、手話通訳を入れるために果たせないでいる。
生放送は準備が大変だが、流れてしまったら直しようがないので、緊張は高いが別の意味で楽になれる。

だが今日は、最初からそうやって撮れない事が解りきっていたのだ。


毒舌でならすタレントは、知事からのご招待もあってか、
奇跡的に原稿に則ってトークを進めた。

そして・・・

それでもやっぱり広報番組に相応しくない表現があちこちに振りまかれ、
しかも原稿通りに進行してしまったからたまらない。

そう・・・
どう計算しても30分番組には内容が足りないのだ。


「フロア(フロアディレクター)さん、さっきのコメントに間違いがあって、
  データ数字の確認をするヒマが無いから、膨らます方向でもう少し喋らせて」

「無理で・・・す。
  もう終わったろ・・・と怒ってます。」

「それが、彼のやり方なんだよ。
  あそこまでちゃんと喋れるんだから、意味は理解するって。
  こういう時はハッタリかましても嘘ついてもいいから、
  とにかく言いくるめて」

「・・・・はい」


スタジオでは老獪なタレントい翻弄されるADが泣きそうになっていて、
調整室ではTK(タイムキーパー)が残り時間を必死になって計算している。

私はスポンサーから「本当に残り時間で全部撮れるのか?」とせっつかれ、
原稿に無い何かを喋らせるためのネタを考える余裕すらない。


「後20分しか無いけど、どうします?」


P(プロデューサーの事。ちなみにディレクターはD)から脳天気な内線電話が入り、


「ギリギリまで撮りますから、そう伝えてください」


と優しく言いくるめるのに余計な神経を使っていたりする。


「多分あと、7分位何か喋らせればどうにかなる」

「7分か・・・」

「知事の残り時間が15分位だから、とにかく回そう。」


これが賭けだった。

この後喋った言葉に問題があれば番組に穴が空く。
かと言って、それを埋めるための別取材に出る余裕(時間、金、共に)もない。

知事とゲストのパートさえ終えてしまえば、残りは司会者だけ残して時間調整すればいいのだ。
それでも足りなかったら、番組中に流すVTR(インサートVと言う)を再編集して尺合わせ(時間調整)
をすればいい。

だけど・・・・
それをやってる時間的余裕が無い・・・のだ。


「どうする?」

「とにかく撮る。
  撮れるだけ撮る。
  時間ぎりぎりまで撮る。
  アイソ(予備にスタジオカメラそれぞれを専用VTRで収録する)も回せないんだから、
  同じ話が2回出てもしらばっくれて編集する」

「悩むヒマも惜しい・・・か」

「そう。
  早く回そう。
  フロアさん、準備は?」

「下は大丈夫です。
  追加の話題はどうします?」


どうします・・じゃなくてぇ・・・(;_;)


「知事とあのオヤジは同郷だったよな?
  地元の話でも語ってもらって。
  でも、選挙がらみは一切ダメだぞ」

「はい、その線でお願いしてみます」


時計を見ると、知事が退出する時刻まで12分を切った。

頼む・・・
7分使えるように喋ってくれ・・・


そして何故か・・・・
この日の放送分の視聴率は、いつもより多目に出ていた。

 
 
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