「最近、ろくなモン食べてないでしょ?」
「昼はポンパドールのサンドイッチ、食べてる・・・」
「夜は?」
「適当に・・・」
「?」
「コンビニ・・で」
「やっぱりね。
そうだと思ったよ。」
「悪いか?」
「貴方の身体の問題ですから、どうでもいいんですけどね。」
「じゃ、ほっといてくれ・・・って、何かの誘いなんだろ?」
「そうそう。
気になる店、見つけたんだけどちょっと出て来ない?」
「行く行く!
で、どんな?」
「豆腐と鴨肉・・・とか」
「荒んだ食生活に、ピッタリな食材だ」
「いいから早く来て。
中華街の東門そばだから」
「合鴨と手づくり豆腐 おさ亭」
045-663-8891
横浜市中区山下町98-104
17:30〜23:30(LO22:45)
日・祝 休み
本町通りから一本裏に位置するこの店は、過去こ洒落たバーなどがあった所に
いつの間にかきちっとした店構えをして存在していた。
「なんだか、小綺麗な入口だね」
「でしょ。
こんな店あったっけ?って感じ」
「問題は味だけど・・」
「カッコも調味料の一つじゃん」
「確かに・・・」
砂利を敷いたエントランスに小綺麗なガラスのドアのマッチングが良く、
ひょっとしたら単価が高いか?・・と思わせるが、店内は小部屋とカウンターとテーブル席がある
ちょっとカジュアルな雰囲気に溢れていた。
「ただの豆腐で600円も取るか・・・」
「まず食べてみない?」
「値段はあまり高くない感じだけど、ねぇ・・・」
「なんかひっかかる?」
「いや、どうして?」
「ちょっと難癖つけそうな口振りって、
気にくわない事がある時のクセだよ、君の」
「そうか・・
そうかも。
メニュー見ると量が少なそうな物が多いし、日本酒は少ないし・・」
「焼酎が色々あるよ」
「焼酎には興味無いんだな」
「わがまま」
ご飯物は殆ど無く、肴となる料理が殆どで、
合鴨料理も至って普通な感じがした。
腹が減っているから、ちょっと腹に貯まる物が欲しかったのだが、
この店の考え方に文句を言っても始まらない。
だから、ベーシックな物を選んでオーダーしてみた。
ざる豆腐
飛竜頭
湯葉
合鴨焼き
特製がんもどき
ジャコサラダ
生ビールを飲みながら久々に仕事以外の会話を楽しんでいると
この店のコンセプトがマトモに出るだろう・・・ざる豆腐が出てきた。
ふわふわっとした食感と大豆の香りが命とも言える「ざる豆腐」は、
そば屋で言えば「もり蕎麦」のような物。
だからこちらも構えて食べてみた。
「は・・・」
「ふ・・・」
「何だよその反応?」
「そっちこそ」
「水っぽい・・・よな。
しかも、水が味気ない。」
「大豆の香りはあまりない・・ね」
「作り置きなんだろ・・ね。」
「マズイわけじゃないけど、
凄いものではない・・かな」
「ま、この時間に和食が食べられる・・と思えば悪くない。」
「そうね」
そうね・・・と呟く彼女の顔には、店構えから期待した物が無い・・と書いてあった。
おしなべて美味しい部類の料理が続いたが、
どこよりも美味しい料理とは言えないレベル。
それは、並べた酒の貧弱さにも象徴されるように、
そこそこのレベルにまとめられた優等生タイプの店だ、と語っているようだ。
「で、さ・・・
最近どう?」
「どう?って??」
「浮いた話の一つも無いのかな・・と」
「どこに?」
「いや、君の周りには色々な物がフラフラと・・・」
「君ほどじゃないけど、忙しいからね」
「どうだかね・・・
忙しくても遊ぶ事は忘れないんじゃなかったっけ?」
「それは君のセリフでしょ?」
「そうだったっけ?」
気付いた。
この店の良さは、
会話を邪魔しない程度の気持ちよさだ。
22時を回ってそこそこの和食が頂けて、しかも会話を楽しめる環境の良さ。
そういう観点でみればお薦めの一店となる。
味は、必ずしも料理の腕前だけではなく、環境や感情によって左右されるもの。
だからこの落ち着いた空気を必要とする場合は、きっとここの料理は凄く素敵に感じるはずだ。
最近、忙しさに負けて、ゆっくりと食事をとる事すらしていないから、
こんな時間が凄く幸せに感じられのだろう・・とは思うが、それにしても居心地が良くてほっとする。
でも・・・
本当に忙しくて沈みっぱなしの毎日は、心を確実すり減らすものらしい。
何故なら、以前は決して環境の良さだけで「良い店だ」と判断できなかったからだ。
やっぱり、余裕ある生活は大切なんだね(^_^;)
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