「スタンバイ」と言えば聞こえがいいが、要は準備。
私の職場においてそれは、収録前日の準備作業全般をそうくくる。
放送に必要なVTRや字幕、原稿等から出演者の控室に貼る名札まで、
ありとあらゆる物を準備するわけだ。
そしてその作業は誰でもできそうに見えるほど単純な作業を多く含み、
それゆえ「大丈夫だろう・・・」と甘く見る人間には「山ほどのミス」となって返ってくる。
だから、声を出しての時間の読み合わせや字幕の現物確認、
スタジオ内で使う物の現物確認、台本やQueシートの枚数確認まで、
スタッフそろってひたすら確認作業を行う。
「珍しく今日中に仕事終わったから、
揃って飯でも食いにいかないか?」
「いいですね〜・・・でも、何処がやってます?」
「俺にそういう事言っちゃうのね?」
「そうでした。
食べる事に命かけてる人に失礼しました。」
「別に命なんてかけてないよ。
ただ、コンビニのどうでもいい飯に高い金払うのは勿体ない・・と」
「・・・そんなに買わなきゃいいのに・・・」
「・・?」
「明日早いんですから、とっとと出ましょう。」
深夜の中華街には、深夜に食べに来る客目当ての店が何軒かある。
「老正興菜館」「北京飯店」「龍月食堂」「山東」「大珍樓別館」「福龍」・・・
深夜値段だったり深夜風味だったりする店もあるが、
概ね良好な味が提供されるのは了解事項。
その中で選んだのは、敢えて「大珍樓別館」だった。
「香港では有名な炒飯があるんだけど食べてみる?」
「え〜、どんなのですか〜?」
「臭い魚が入ってる・・・」
「どうしますかぁ・・?」
「なんか・・・ねぇ・・」
何故かスタッフは女性ばかり。
不思議な事だが、いつも私の下には女性がつく。
(人畜無害ではないはずなんだが・・・)
せっかく二人の女性を引き連れての夜食だから何か美味しくて変わった物がいい・・
とは思ったがさすがに「鹹魚(はむゆー=塩魚)」は冒険だ。
「レタスの湯引き」
「香港風あえ麺」
「鹹魚炒飯」
「芝エビの特製チリソース煮」
これで足りなきゃ、「雲呑」を追加すればいい。
今日のゲストの二人は食い気とその要求量があまり比例しないから、
様子を見つつオーダーしたのだが・・・・
「何か・・・本当に臭いです・・けど、鮭みたいな感じもして・・・
好きかもしれません」
「私は、全然平気です。
美味しい〜」
「しかし、なんでこんな店知ってるんですか?」
「なんでって言われても、
深夜にやってる店を片っ端から食べてみればブチ当たるでしょ?」
「香港と同じ味って・・
よく香港行ってましたっけ・・・?
どれくらい行くんですか?」
「・・年2回かな」
「え〜・・って、よくお金がありますね」
「それくらい普通だろ?
他に贅沢しなきゃ行けるよ。」
「無理無理。
絶対無理。」
「そうかなぁ・・・」
「いつも、色々な所で食べてて
三連休にした時は香港じゃ・・・」
「ちょっと待て。
何か勘違いしてないか?」
「だって毎月行ってるんでしょ?」
「私は『年2回』と言ったんだが」
「あれ?
12回じゃなくて??」
「はぁ・・・・」
そうだった・・・
コイツはよく指示を聞き間違えるヤツだった・・・
「大珍樓別館」
045-661-0077
横浜市中区山下町151
月〜金 17:00〜02:00(L.O.01:15)
土・日・祝 12:00〜01:00(L.O.24:15)
無休
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