夢を見る事が少なくなった。
熟睡できない日々には、何となくどうでも良い夢を見たのだが、
ここのところは力技で無理矢理寝るため、睡眠中の記憶はほとんど無い。
なのに、突然変な夢を見て、あわてて起きてしまったのが今朝の事。
ある日、私は、どこか懐かしい風景の中を、
あてもなくフラフラと歩いていた。
横には見知らぬ女と、茶色い大きな犬。
そして足下にじゃれ付くトラ猫。
女は、ちょっと痩せ過ぎに近いほどスリムで、
抱きしめたら折れてしまいそうに思えた。
何か、楽しそうに語る彼女の言葉は、何の抵抗もなく私の中を通り過ぎ、
ただただ彼女の笑顔だけが印象に残っているだけ。
そして私も、彼女との会話を楽しむでもなく、微笑みだけを返していた。
「あのさ・・・
もう少しちゃんと相手をしてあげなよ」
突然、トラ猫が私を見てしゃべる。
え?・・・と驚くが、ヤツはかまわずそのまま話を続けた。
「だいたいさ
いつちゃんとする気なんだよ?」
「何が?」
「あんなに必死にアンタにしがみついてるのに、
わかってて気が付かないようにしてるじゃないか」
「うるさいな、猫のお前に何がわかる?」
「おいおい、俺はお前ら人間の考えなんて全部わかるのさ。」
「ほぉ・・・・」
「俺らはちゃんと喋れないから、その分アンタら出す匂いで
アンタらの感情を知るようにしてるのさ」
「匂い?」
「そうだよ。
人によってその匂いは違うけど、感情に従う共通した匂いが出るのさ。」
「へぇ〜
じゃぁさ・・・怒ってる時はどんな匂いがするんだ?」
「特に決まってないけど、鼻がチクチクする感じ・・・だな」
「へぇ・・・・」
「アンタから出る匂いは、何も変わらないから、
お姉の出す寂し匂いが強くなるばかりで、苦しくなったんだよ」
お姉・・・・
この女か?
・・・と彼女の方を振り向くと、ベロッと犬が顔をなめた。
「兄さん、今日も仕事行っちゃう?」
コイツも喋るじゃねぇか・・・
「あぁ行くぜ。
収録のスタンバイがあるからな。」
「でもさ、もうすぐ夕方だぜ?」
「え・・・」
「ヤバいって思ってもさ、時間は過ぎちゃって手遅れさ。
それより、あそこの肉屋で骨買ってくれないかな」
「相変わらず、大喰らいだな。」
「子供の頃は、バケツいっぱい肉食わせてくれたじゃん」
「だからウチは貧乏なのさ」
「うそつけ・・
全部兄さんが飲んじゃっただけじゃん」
そうだった・・・
毎晩、浴びるほど飲んでいたんだ・・・
スタンバイ・・・か
これさえやってしまえば、後は寝ていても収録できるってもんさ・・・
と、待てよ、スタンバイ・・・・って今日じゃん!
がばっと起き上がると、いつもの時間。
夢を見ていただけだ・・・とわかっても、何故かその光景だけは記憶に残っている。
「ねぇ・・・
仕事が大変なのはわかっているけど、
休まないと身体が保たないわよ?」
「そうなんだけど、休めないんだ」
「そう言いながら、色んな事に背を向けてるでしょ?」
「そんなに、俺自身のキャパシティは無いんだよ」
「だから、誰にも心を許さなくなったの?」
「そんな事はない。
どっちかと言えば逆さ。」
「そうね・・・
優しい顔は見せてくれるわね」
「優しいだろ?」
「ちっとも」
がばっと目が覚める。
あれ?
どこまでが夢だ??
と思って時計を見たら、起きなくてはいけない時刻だった。
あ・・・
そうだ・・・
今週は高校野球の中継があるため、
特別に番組は休止だ。
と、いう事は、スタンバイも無い・・・・のか。
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