「新しく開いた店があるんだけど行かない?」
「そうきかれて行かない・・と言った事があるでしょうか?」
「だよね
だから声かけた」
「いいタイミングだよ。
いきなり忙しいから、こういうスクランブルに対応するのは結構難しいんよ」
「食い物の話は逃さないでしょ?」
「・・・・ま・・・ぁ・・・」
「フレンチだから、一人じゃ行きたくないってのもあるし、
味バカ連れてってもつまらないし・・・」
「どうせ、食い気中心だよ・・・俺は」
「開いたばかりの店だからさ、ちょっと気になって昼行ってみたのよ。」
「相変わらず話の展開が早いね・・・」
「でさ、花輪が凄くってさ」
「聴いちゃいねぇ・・」
自分の事ばかり喋るヤツっているが、彼女はなかなかの強者。
喋る時は一気で、自分のペースを堅持する。
それでも腹が立たないのは、基本的に同じ方向を向いているからで、
別々の事を同時にしゃべっていても、興味の対象がまったく同じだからだろう。
「スタッフが4人もいるのにさ、
凄く待たせるのよ。」
「開いたばかりの店じゃぁ・・ねぇ」
「昼なのに、プリフィクススタイルでやろうとするのは認めるんだけど、
前菜出してからスープが来るのに10分以上・・・」
「前、反町の店で同じような目にあったなぁ・・・」
「メインがなかなか出なくて、1時間の休みが終わりそうになって・・・」
「あの時は、パーティーが入ってたらしいけど、こっちにとっては関係ないし・・」
「だから、アッタマきて店長呼び出したのよ」
「俺の場合は、先に店長に謝られてしまったよ」
「『オフィス街の昼にこんなにモタモタしてたら店潰すよ』と言ったのね。
でも、ちゃんと『料理が美味しいから、敢えて文句を言ったのよ』と伝えたら、
その店長はわざわざ外までお見送りしてくれたのよ」
「で、夜に俺を連れて、確かめよう・・と?」
「味もそうだけど、ケンカ売ったままトンズラは嫌なのね。」
「俺も、ケンカ売った後は、きっちり顔を出すようにしてるよ。
コッチが大事にしたい店だからケンカ売るんだしね」
「そうそう。
だから・・・・ここよ」
「ストラスブール」
045-227-7018
横浜市中区常盤町3-27-2
火〜土 11:30〜14:30 17:30〜22:00
日 12:30〜14:30 17:30〜21:30
月曜定休
関内のど真ん中にあるその店は、最近できました・・と書いてあるように
新店舗らしい外観内観が溢れている店だった。
スタッフも調度も全てが新しい感じで、その分清潔感に溢れてはいるが、
なんとなくギクシャクとした空気が流れているのはご愛敬か。
厨房がなんとなく覗けるような作りになっているから、
それなりに腕には自信があると思える。
しかし、中の動きはマダマダで、彼女がケンカを売る気にさせられた理由が
既に想像できているのがオカシクもある。
「何、食べる?」
「こういう場合は、コースでしょ。
一番安いコースを頼んで、ハーフボトルでももらえばいいんじゃない?」
初めての店では、店の力を端的に表しやすいコースを頼む事が多い。
一番安いコースは、店が選ぶ客層を意識したボーダーラインでもあるから、
その中の工夫や傾向を探るにはもってこいのモノなのだ。
3800円のプライスが付いたコースは、
この店が少なくとも4000円/人をボーダーにしている姿勢がうかがえ、
微妙な線引きに苦労と工夫が見えそうで期待が盛り上がってきた。
「パテとフォアグラ、イチジクのコンフィー添え」
「季節野菜のサラダ」(本来はスープのはず)
「子羊ロース肉ロースト ラタトュイユ添え」
「自家製アイスクリーム&シャーベット盛り合わせ」
フォアグラ持ちがフォアグラ食ってどうする・・・なんて事は言わず、
あまり好きではないそれを食べてみるが、想像を超えるような味ではなく
少しがっかり・・・少し納得しつつ、値段との考察にふけってしまう。
「フォアグラ」はフレンチにはよく出てくる食材だとは思うが、
コレを美味いと思って食べている人はドレくらいいるのだろう・・・
元々レバーが好きではないからそう思うのかも知れないが、
美味い焼鳥屋で出されたレバーの方が遙かに美味しいと思うあたり、
きっと素晴らしく美味しい「フォアグラ」に出会っていないだけだ・・と思いたい。
しかし、最近訪れる店では、やたらとフルーツを使ったソースが多く、
次のサラダにもどっかフルーツソースっぽい甘酸っぱさがつきまとっていた。
フレンチレストランに来たら、一応ワインをオーダーするが、
今日頼んだのは「ロバート・モンタビ」の白。
テイスティングをすると、少し不思議な香りがあって、
中途半端に甘さがある一種独特の風味を持っていて驚いた。
料理がフルーツソースで彩られている分、上手くマッチングしてくれてはいたが、
カリフォルニアワインとしてはどうなんだろう・・・としばし悩んだのは事実。
「味は悪くないでしょ?」
「そうだね。
しかし、君が言うほど出てくるのに時間がかからないじゃん」
「こうやって出てくれば、ケンカなんて売らなかったわ。
実際、すっげ〜待たされたんだから」
「あんまり客が入ってない状態で?」
「そう。
今の方が入ってる感じ。」
「カウンターもあるようだし30人は入れそうだけど、
夕方7時くらいでこれでは苦戦するかもね」
メインの子羊は、まぁまぁの味。
3800円コースとしては許せる部類だが、
こうなると以前紹介した「修廣樹」の秀逸さが際立ってくる。
何故なら同じような値段で、
少なくとも複数回の驚きと感激があったからだ。
「微妙な値段だよね・・・」
「このペースで出てきて、この味なら許す」
「相当、お怒りモードに入ってたのね」
「だってさ、貴重な昼休みがイライラしっぱなしじゃさ、
美味しいモノも美味しく無くなっちゃうでしょ」
「普通は、二度と行かないリストに入れて終わりじゃないの?」
「でもね、スッゴイ態度が良かったのよ。」
「気持の問題ってのは、大きいからねぇ」
「で、貴方の仕事はどうなのよ?」
「や・・・と、俺の事訊いてくれた・・・か」
マイペースに生きる事は、どこか乱暴だ。
自分だけの考えで突っ走れば、必ず廻りが迷惑を受ける。
しかしそれでも、誰にも嫌がられない人がいたりするから面白い。
店と客の関係は、対等には存在しないと思っている人が多く、
それゆえ傲慢に振る舞う人も少なからずいる事は知っているが、
愛情をもったクレーマーは対等の意識さえ失わなければ決して傲慢には見えないものだ。
「この前、いらっしゃっいました・・・・お客様ですね?」
「えぇ」
「あの時は大変失礼いたしました。」
「いいえ」
「今日は如何でございましたか?」
「来た甲斐がありました」
こうやってまた一軒、ワガママが通用する店が増えていく(^_^;)
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