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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

しまいにゃ、やられた

「先輩、久々に実家戻ってんですけど、会いませんか?」

「お〜、どうだった?大阪??」

「やっぱ、人間関係に苦労してます。
  でも、食い物は美味いし安いです。」

「だろ〜
  で、どうする?
  酒でも飲むか? それとも中華でも食うか?」

「あ、中華、いいですねぇ。
  でもその前に箱根に行かないですか?」

「箱根だぁ?
  なんでよ??」

「やっぱこの時期、紫陽花見ながら箱根登山鉄道でしょ?」


そうだった・・・
コイツの頭の中は、いつも電車の事ばかりだった。

単身赴任している大阪から用事で横浜に戻ってきても、
紫陽花電車に乗る事がメインの目的と考えてしまうほど・・・


「じゃ、藤沢駅に朝9時50分集合・・という事で」


はいはいわかりました。
どうせ、色々な電車に乗るべくスケジュールを立てたんでしょ(^_^;)

と呆れながら約束した事を反芻しながら、藤沢駅のコンコースに立っていた。


20年も前、この地で働いていた事があったが、
その年月がすっかり風景を変えている。

なんだか、浦島太郎のようだな・・と感傷に浸りそうになった時、
ヤツがうしろから頭を小突いた。

「お待たせしました。
  まずは7000系です。」

だから、型番で言われたって知らねっつ〜の(^_^;)


片瀬江ノ島から出るロマンスカー「えのしま」
本来は新宿と片瀬江ノ島を結ぶ特急なのだが、ヤツの目的は電車に乗って箱根に行く事。
新宿から一本で行くより、途中を乗り換えてでも色々な物に乗りたかったに違いない。

目指すは「相模大野」という別ラインとの中継駅。
そしてそこから、本来の目的方向へと乗り換えるつもりなのだ。


「どうよ、最近」

「えぇ・・・全然ですね」

「とうとうダメになった?」

「いや、この前は何だか特別製とかのTシャツを送ってくれました。」

「なのに、何で俺とロマンス・・・なんだよ?」

「彼女、忙しくって」


どうせ俺はヒマだよ・・・
いや、無理して時間を作ってやっただけだよ

しかし、どうしてこいつはこんなに電車が好きなんだろうね?


相模大野で鈍行に乗り換え一路箱根を目指したが、
土曜だというのに、凄く人が乗っている。

終点まで行くんだから座りたいな・・・と思うのだが、
平気で床にベタベタ座った若造までいて、身動きすらできないのだ。

ヤツはきっちり一番前のど真ん中にポジションを取り、
運転手の動きと線路とを交互に見て楽しんでいる。

仕方なく私も運転手の後ろに立ったが、駅に近づくと駅名が出るモニターや
遮断機が下りていると点灯する信号などに気がついて、ちょっとだけ楽しめるようになった。

東海大学前に着いた途端、山ほどいた人間が降り、
やっと観光に向かう雰囲気を漂わせた車内に変わる。

こっちもゆっくり座る事ができるのだが・・・
ヤツは相変わらず運転席の後から離れなかった。


そう言えば昔、自分も電車が好きだった。
駅まで行って、電車が来るのを見て楽しんでいた。

それは、大きな鉄の固まりが動く様が面白い事だけではなく、
そこには会いたい人が乗って来る・・と信じていたからだと思う。

確かに、その会いたい人は、一度だけ電車に乗ってやって来たが、
残念ながらその顔の記憶は無い。

大きな手と足、そしてお土産にくれたチョコレートだけが記憶にある。

そしてその後、二度とその人はやって来なかったが、
電車を見に行く楽しみは、ずぅっとそのまま続いた事を思い出した。

しかし、そこの電車好きにはどんな思い出があるんだろう・・・・


「ちょっと並びますけど、いいですか?」

「やっぱりこの時期の登山鉄道って混む?」

「土曜ですから、当然です。」

「それより腹減ったんだけど、湯本に美味い蕎麦屋があるんだ。」

「あの・・・・」

「何だよ?」

「弁当買って、強羅まで行っちゃ・・・ダメですか?」


良いですよ、良いですとも。
久々の関東だ、好きにしてくれ。

そんなやり取りをしているうちに列車は箱根湯本駅についたのだが・・・

確かに、凄く人が並んでいた。


「おい・・・マジかよ?」

「えぇ、でも今日は少ない方ですよ。」

「なんかビッシリ列ができてるんですけど」

「だからお弁当買って、並ぼう・・と」


そうでした。
電車の関係では「駅すぱあと」より詳しい君。
仰せの通りにいたしましょう。

そして・・・・
2本の電車をやり過ごした後、我々は一番前の席をゲットする事に成功した。


旧式の電車に通勤電車さながらの乗車率で、
箱根登山鉄道はとんでもなく遅い速度でスイッチバックしながら登っていく。

座らなかったら苦しかったな・・・と思いつつ、線路脇の紫陽花を愛でていると、
線路脇に三脚を立てて撮影している人間を多く見かける。


「いるんだなぁ・・ああいうヤツ」

「何言ってるんですか。
  一年でこのシーズンしか取れない風景ですよ。
  それにこの時期は、箱根登山鉄道も大目に見てくれるんですよ」

「へぇ・・そうなんだ」

「だから来たんじゃないですか」

「え?」

「あ・・・先輩、今の私の目はコイツです」


ヤツは、バッグからキャノンD10を取り出した。


「それって・・・」

「デジカメです。
  綺麗ですよ」

「じゃなくて・・・」

「紫陽花の中を走る箱根登山鉄道って、何回も撮ってるんですけど、
  どうも今一、良い画が撮れないですよ。
  だから、今日は是非、ご教授ください。」


やられた・・・・
弁当食いながら、撮影・・・・が目的だったか


ヤツは生粋の鉄道マニア。

だから、たまのオフにも鉄道三昧。

そんなヤツだと知っていても、
ついつい付き合ってしまう自分が情けない。

それでも何故か憎めないのが、自分の中でも不思議では、ある。

 
 
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