午前0時を過ぎた頃、その女性はかったるそうに交差点を渡っていた。
ふらつく足元が危なっかしいが、ロープで引っ張られているかのように進んでいく。
その妙な動きが気になってよく見ると、肩までかかる髪に隠れた携帯がちらり・・と見えた。
あぁ・・方向会話か
こんな時間だから、好きな人と話しているのだろう・・・・
会いたくても物理的に会えない状況に苛つきながら、心に空いた穴がこれ以上大きくならないように
必死で大切な気持を詰め込んでいるのがわかる。
そう言えば、終電が終わってから歩いて帰る時、
こうやって誰かと話をする事があったな・・・と思い出す。
今は、寝ている人を個人的感情で起こさないようにメールだけにしているが、
それはそれで、やはり迷惑な事なのかも・・・と少し反省した。
携帯電話は、会話以外にも色々なモノを送る事ができるようになった。
メールも画像も動画すらも・・・
だが、携帯の役目は、気持をその時送る事につきる。
直接手が届かない距離を埋めて自分の気持ちを発信する事で、
自己満足という効果も含めた感触を得られる事も事実。
だから、生きていく事に敏感で貪欲な人は、
効果的にこのツールを活用するのだろう。
しばし彼女を眺めていた。
ずぅっと歩きながら、喋っている。
ちょっとよろけながら、焦点の定まらない眼差しで前を見つめ、
時折大きめの声を出して、喋っている。
その姿が、少し悲しく、少し羨ましく見えるのは何故だろう?
それはきっと、彼女にとって一番心許せる人とのデートを無意識に想像し、
同じくこんな時間に一人きりで歩いている自分の孤独さ・・を再確認させられるからか?
しかし、彼女の姿にはまるBGMがラブバラードなら、
私の散歩にはまるのはトトロのテーマなんだよなぁ・・・(^_^;)
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