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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

とある風景<3>

「ねぇ・・・、横浜の空って色があるんだね」

「え・・・」

「私、もうダメかしら」

「大丈夫だよ」

「変な色に見えるの、空」

「血は止まったよ・・・」

「怒られちゃうよね・・
  言うこと聞かないでバイクで出てきた事」

「そんな事ないよ
  俺が強引に誘ったんだ」

「ね・・・
  今言って
  大事な事って何?」

「ちゃんと話せる時に」

「ダメよ、今じゃなきゃ。
  明日目が覚めなかったら、聞けない・・・・」

「そんな事言わないで。
  大丈夫たから。

「言えないの?
  何故?」

「遅いな・・・救急車」


二人は、解りきった答えを言葉にしたかった。

彼も彼女も、その形こそ違え、同じモノを見つめているのに、
形にできない恐怖から逃げようと、正反対の方向を見つめてしまう。


次の瞬間に訪れる事が予測できないから、
生き延びるためにはたくさんの経験とその記憶が必要になる。

その経験の一つが今、次の経験に繋がる保証のない現実の上に成り立ち、
若い二人は今その時の感触すら、掴めないほど混乱してしまったのだろう。


「私、強引に誘ってくれたの、嬉しかった。
  お父さんが怒っても、お母さんが泣いても、
  身動きできないあの家から連れだしてくれたの、嬉しかった。」

「俺・・・
  一緒に走りたかった。
  安全に走れるって自信あったのに・・・」

「カッコ良かったよ
  でも、無茶してるなって、ちょっと思った」

「ごめん」

「嬉しかった
  私の為に・・・ってわかってたから」

「ちゃんと怪我が治ったら、また海老マヨ食べに行こう」

「うん・・・
  でも、寒くて頭がどんどん道に埋まっていくように後ろにグルグルまわって・・・
  やっぱりもう立てそうにない」

「大丈夫だよ」

「どうして大丈夫って言えるの?」


若すぎると止められても、無茶だと叱られても、
一緒に生きていく自信はあったのだ。

だから本当に、あの家から彼女を奪ってきたハズだった。
なのに、その決意を語る前に、自分で壊してしまったなんて・・・


知っている
いや、知っていた

いつも、幸せが本当の形になる直前で、
必ず壊れ去ってしまう事

そんな事はないよ・・・って否定してくれた人は一人だけだったのに、
その人もまた、二人して望んだ形を否定し、去っていった

また、
その繰り返し・・・なんだろうか?

また
同じ苦しみに押しつぶされてしまうのか?


若さは、その悲しみが本物探しの道程である事を、
理解させる力を持たせない。

そしてその「若さ」は、
何故か目も眩むほどの輝きを持っている。

 
 
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