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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

ペコスブーツ

ウェスタンブーツが好きで、やっとの想いで一本買って、
脂を塗ったり手入れをしたりしながら、ひたすらソレを履き続ける。

最初は金が無かったから、格好だけ本物っぽい安い国産品を履いたりしたが、
バイクに乗るのに使っている事もあってか、すぐダメになって悲しくなった。

1万円近い靴が1年保たない・・となると、不経済極まりない。

が、ウェスタンブーツは履き続けたい・・・と悩んでいるところへ、
友人から「本物を買わないか?」と打診があった。


「高校の頃、バイトして買った『デュランゴ』なんだけど、
 ちょっと履いて飽きちゃって下駄箱の奥にしまってあったんだ。」

「へぇ・・・
 じゃぁもう6年位前・・の物だね?」

「買った時は4万近くしたんだけど、2万でいいよ」

「おいおい、6年も放りっぱなしを半額かい?
 現物見て良かったら考えるよ」

「気に入るって。
 茶色のコンビだけど、絶対カッコイイって」


ウェスタンブームが来ていたのは70年代。
そしてその話が持ちかけられたのは80年代初頭の頃。

だから、巷に本格的なウェスタンブーツの存在は無く、
青山の「ベーリーストックマン」(1974創業:03-3408-4763)辺りまで探しにいかないと
姿すら拝めない状況ではあった。

「どう?」と彼が新聞紙にくるまったウェスタンブーツを持ってくるのに時間はかからなかったが、
彼自身宝物のようにしていたソレは見事に埃にまみれ、ヤレた感じがする酷い状態の物だった。

う・・・・と声が詰まったものの、革を触ってみると堅くなっていない。
銀面にひび割れも無く、手入れ次第でかなり復活しそうな気配が予想できたので、
言い値の2万で即座に購入した。


「もう随分前の物だから、それなり・・だよね?」

「おいおい、売っておいてそういう言い方は無しだよ。
 ま、まずは脂をやって様子を見るけど、充分使用に耐える状態だと思うよ」

「そうかな・・・」


売った本人は金に困っていたらしい。

そして、たぶんゴミ・・と思っていた靴が、好き者に高く売れた・・と喜んでいるのだが、
そんな物を売ってしまった行為に少しだけ罪悪感を感じているように見えた。


ウェスタンブーツではないが、似たよう形のブーツがあった。

別の友人が、やっぱり宝物のようにしていた物で、
ウェスタンブーツのように胴が長くなく、トップの前後が深く切れ込まないのが特徴だった。
綺麗な茶色の単色だったが、低い踵ともに妙な格好良さがあったのだ。

手入れが行き届く・・というのはこういう物だ、と言わんばかりの状態で、
いつも玄関に置かれていたソレを、彼の家へ遊びに行く度に見せつけられて、
いつかはこんな良いブーツを買おう・・と心に決めさせる程良く見えた。

だから、友人にとってゴミ同然のブーツも、私にとっての宝物にできる感触を見つけた瞬間、
買いの決定が自然にできたのだ・・と思う。


その彼のブーツメインテナンスは、かなり豪快だ。

脂を指で直にブーツに擦り込むやり方は、傍で見ていても手がベタベタする感じがしたが、
彼に言わすと「コレが一番」らしい。

友人から買った「デュランゴ」を生き返らすのは、あの方法しかない・・・・

そう思った私は、売った本人の前でブーツにミンクオイルを指でタップリと塗り込んでみせた。


・・・・え?

と二人は同時に声を上げた。

なんと、薄汚れて艶の欠片も無かったブーツが、みるみる生き返っていくのだ。


「あのさ・・・
 この2万返すから・・・さ?」

「何言ってんだよ、コレはもう俺の物。
 ブーツ好きの俺の為に持ってきてくれんじゃなかったのか?」

「あはは
 冗談だよ。
 大事にしてやってよ」


それからそのブーツは、甲の部分が大きく裂けて使用不能になるまで
ほぼ5年近く毎日のように履かれ続ける事になる。


新しい靴を買った。
ブーツメインテナンスを教えてくれた友人のブーツと同じモノだ。

色は黒だが、そのスタイルはあまりに懐かしいスタイルをそのままに保っている。


レッドウィング社製で「ペコスブーツ」と呼ばれるそれは
まだまだ堅く、足の甲やくるぶしに少し当たって痛みを覚える。

しかし、その革はやがて、快感さえ与える感触を伴って足の形に合うように伸びる事が解っているから、
自分の靴にするための調教と思って履いている。


自分的には久々のヒット。
エンジニアブーツに取って代わってもいい・・とさえ思える。

そして、その想像以上に良さがありそうだ・・と予感できるから、
すでに鉄板入りタイプを追加注文しようか悩みだしてもいる。

 
 
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