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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

渚園 2003

天気予報はどこも台風の上陸を伝えている。

前夜から土砂降りは予想できたし、朝になっても雨は強くなるばかりだから、
正直言って根性が抜けそうにもなったが、こんな天気で往復600キロを楽しめる事は少ない。

そして困難が大きいほど、到達点での味は格別な事も解っていた(^_^)


東名横浜ICで上に上がった時、友人から電話が入る。
少し呆れた声で「気を付けろ・・・」と言われても全然意に介さない。

そうさ、これは千載一遇のチャンスなのだから・・・

果たして東名高速は、たまに殆ど前が見えない程の豪雨のため、
どの車も100キロ程度しかスピードを出していなかった。

追い越し車線には水溜まりができ、後輪が空転を始める。

その瞬間、トラクションコントロールが効き、勝手にエンジンの出力を絞ってしまい、
気持ちよい滑り等感じられる術も無いが、こんな日に蛮勇は要らない。

濃霧にも似た殆ど視界の無い状態で、140キロも出して走っているのだ。

時折水溜まりに取られるステアリングを押さえ込み、
追い越し車線をノロノロと占領する車にプレッシャーを与えて道を切り開く。

それはきっと、自分の持てる力を確認するような行為かも知れない。


山肌にポッカリと口を開けたトンネルに向かうと、突然雨が強くなった。

目の前が点けているライトで白くなり、山の上の方だけしか見えなくなる。
それはまるで、白い壁にむかって走るチキンランにさえ感じられた。

ウェッ・・・
怖ぇ・・・・

と感じた瞬間トンネルが見え、壁と錯覚した雨は風によって向きを変えた事がわかる。

そう、こんな緊張感が、欲しかったんだ。


「今、何処ですか?」

「あぁ、由比の辺りだ。
 ハイドロ起こして分離帯に単独で突っ込んだバカのお陰で渋滞中さ。」

「こっちはやっと雨が上がって、今テント建ててます。
 慌てずに来てください。」

「了解。
 ビールもワインも積んできたぜ。」

「肉、35人分あります。」

「お〜い、そんなに食えるのか?」

「大丈夫っす。
 皆、夜になれば集まってきますから。」


主催者のキムが、豪雨の中を走る私を気遣って電話してくる。

大丈夫さ。
俺は、バイクより車の方が上手く操れるんだ。

スペシャルステージ中の濃霧より、遙かに楽なもんよ・・・・と心の中で呟いた。


今年の渚園は、こうして始まった。


「雨って嫌いなんだよね」

「なんでよ〜
 霧より見えていいじゃん」

「あのさ、チェックで外へ飛び出すのは俺なんだぜ。
 足元ぬかるんだら、靴なんてグチャグチャになるんだよ。」

「そうだった。」

「でも、雨降ると腕で勝負ができるからいいよね。」

「うん・・・でも、腕がなぁ・・・」

「せっかく励ましてんだからさぁ・・
 アッ」

「チェック!!」


ピーッと鳴り響く笛。
笛と同時にコンピュータに入力をする太田。

どうして気を抜いた頃にチェックがあるんだろう・・・とボヤくが、
このラリーは前分スタート。

ぬかるんだ道でなるべくタイヤを空転させないように、そして速く走らなければ脱落してしまう。

皆、滅茶苦茶なタイムになってるのは、道の掘れ方を見ただけで想像がつく。
(タイヤを空転させてでも走らないとスタックして終わりになってしまう)


「13分スタートね! 踏んで!!」


もらってきたチェックシートのデータを入力しながら太田が叫ぶ。
言われる前に全開走行をしている私は、極力直進しようと頑張っていた。


「うわっ!」
「げ!」


イニシャルトルクを高めに設定してあるノンスリップデフは、
ちょっとしたキッカケで直線でも横に車をスライドさせる。

それでもカウンターをあてたままアクセルを踏んでいれば、どうにか直進はできるのだが、
いきなり私達の車は真横を向いたまま直進を続けていた。

下手にアクセルを戻してグリップが戻れば、真っ直ぐに谷底。
かと言ってアクセルを踏み続ければ、やがてはスピンしてやっぱり谷底。


「我慢!」

「おねがい戻って!」

「落とせるか!借金の固まり!!」

「もっと踏んで!」

「お願い、落ちないでぇぇぇ」


先ほど走ってきた東名で、後輪が両方とも空転しはじめる感触を思い出すと、
去年一緒に来た太田との思い出が蘇ってきた。

車でシビアな運転をする時は、いつもヤツが横に乗ってたな・・・・と。


去年見れた夕日は、今日の天候では見る事は不可能だろう。

でも、今日は追悼のために走ったのではない。
太田を思い出すために走ったのでもない。

仲間に会うために、走ってきたのだ。
生きている実感を確認するために、走ってきたのだ。


時は止まらない。

だが、そのスピードは、
心の持ちようで如何様にも変わる。

だから、いつも前を向いて走りたい。

そして、新しい道を常に自らの足で走り続けたい。


そう思って、そう走っても、
必要な時はちゃんと過去のシーンが蘇り、
その時の感触が必要な分だけ思い出せる。


そんな事を考えた午後、
仲間の用意した特別な空間で、新たな感触を味わっていく。

これだから、走る事はやめられないのかも知れないね。

 
 
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