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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

マッカラン・グレンリベット1937

「ねぇ、すっごい古いマッカランって飲んでみたい?」

「そりゃ、もう」

「実はさ、第二次世界大戦より前にできたマッカランがあるんだけどさ。」

「へ?
 それって何年の・・・」

「1937 の 36年物」

「え・・・・1937???
 オフィシャルですか???」

「ゴードン&マクファイルの『マッカラン・グレンリベット』」

「高いですよね?」

「定価だと20〜30万円と言われてる」

「・・・・」

「でもそれを、5万位で買ったんだ。」

「何故そんな値段で?」

「わかんない。
 ただ、ある酒屋のレジの後ろにある棚に、そんな値段が付いて載ってたんだよ」


思い出せば、高価な酒を買うのに勇気が凄く必要だった頃の事。

自分で買う酒には1万以上なんて払う気なんてさらさら無かった私にとって、
その酒はもの凄い魅力を振りまく魔物のように見えた。

マッカランはモルトのロールスロイスと言われるほど優れた酒で、
同時にサントリーの優秀な宣伝戦略による周知徹底の結果、誰でも知っている程有名でもある。

ご多分に漏れず私もその酒を飲んでみたのだが、たまたま安売りしていた18年物が恐ろしく美味くて、
一発でマッカラン中毒になったのは当然の帰着だったろう。

で、そんな時に、その酒に出会ってしまったのだから・・・・

2週間、買うべきか買わないべきかを悩み、色々な人に意見を求めたりしたのだが、
その中でこういう人が居た。


「今、その年代の酒が存在する事自体が奇跡的なら、
 その年代の風を感じられる希有なチャンスじゃないのか?
 買って飲まずにストックしておくつもりなら無理して買う必要は無いと思うが、
 経験を買える・・と思ったら金には換えられないんじゃないかな・・・」


その言葉を聞いた日、そのボトルを手にしたのは言うまでも無いが、
それをそのまま、行きつけのバーに持っていく・・という暴挙にも出てしまった。


「THE DUFFTOWN」
 045-663-7936
 横浜市中区石川町2-62 嘉山ビル2F
 18:00〜27:00(日祭日25:00)


「トビさん、こんなん持って来たんだけど、一緒に飲んでくれない?」

「持ち込みですか・・・え?・・・えぇ?・・・」

「飲んだ事、あります?」

「いや、無いですね。
 解りました、じゃ今日は一緒に飲むって事で場所を提供します。」

「すいませんワガママ言って」


ピンク色の封を切って蓋を取った瞬間、1937のマッカランは2メートル四方に豊かな香りを振りまく。
あの、マッカラン特有のチョコレートの様な甘さを伴う、ブランデーにも似た芳香が広がり、
飲む前からその凄さを想像させるに十分だった。


「凄い・・・」

「いやぁ・・・ビックリしました。
 凄いですねぇ、この香り。」

「飲んでみようよ」

「そうですね」


いつも味わう場所で、いつもと同条件で飲む事。
それが、その酒を判断するのに、一番適している・・と思う。

だからこそ、モルトを飲むために通う店で、プロの意見も聞きながら飲んで見たかったのだ。

そして・・・・

確かにマッカランの味でありながら、43%の加水モノとは思えない味の強さと香りの広さは、
今のマッカランが良くできたコピーでしかない・・と理解させる力を持っていた。

誰が飲んでも「美味い」と思う・・だろう。
そして、間違いなく「マッカランの味」その物だ。


「これのカスク物(樽出し原酒)があったら飲んでみたい・・・」

「望み過ぎです」

「確かに」

「しかし良いですね。
 へぇ・・・彼処の店で5万位ですか・・・・」


その後、ひっそりと同じボトルが仕入れられ、バックバーの奥に並ぶ事になったのだが、
目敏いマッカランファンに見つかって、あっという間に売り切れてしまったのは言うまでも無い。


「で、そのボトルはココにあるんだが・・・」

「え・・・・
 持って来たんですか?」

「そうだよ。
 いつも話ばっかりだからさ。
 味の引き出しの一つを増やしてもいいんじゃないか・・・と」

「ありがとうございます。」


「RobRoy」でストックしておいたソレをマスターと飲んだのは、もう随分前の事。
そしてそのモルトは明日、東屋参加者に少量振る舞う予定だ。


「酒飲みって変だよね」

「?」

「良い酒を誰かに振る舞いたくなるんだ」

「あはは、確かに。」

「店でも、こんな良い酒が・・・って勧める時、
 ちょっとした謎掛けしたりするでしょ?」

「しますね。
 味の好みを探る上でも大事ですし、持ち込んで置いてくお客さんによっては
 『このボトルの凄さを理解した客にだけ飲ませろ』って人もいますよ」

「あはは
 解るな・・・その気持。
 こんなに美味いんだから、味のわかるヤツにこそ味わってもらいたいって思うんだ。」

「酒って、そういう意味では良いですよね。」

「大事な酒を惜しげもなく振る舞えるって、幸せな事だよね」


大事にしている物を分かち合える気持がいっぱい有れば、
世の中はきっと住みやすくなる。

楽しみは皆で分かち合いたい・・という気持を持てば、
争い事も利己主義も減るのではないだろうか?

素晴らしい酒だけでもそんな力を発揮できるのだから、
きっと気の持ちようでどうにでもなれるハズ。


人間は、争い事が好きな動物。
そして「欲」に支配されやすいモノ。

それを理解した上で感情をコントロールできれば、
ワケの解らない戦争なんて起きないようにも思うのだが・・・・・。

 
 
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