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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

華都飯店にて

「お〜久しぶりだな。
 現場に復帰したんだって?」

「えぇ」

「よかったなぁ
 でもお前の会社やばそうだな」

「非常事態ですね。
 稼げるヤツは一人でも多く現場でって事ですよ。」

「ところでよ。
 裏切ったヤツを許せるか?」

「随分、唐突ですね。
 う・・・ん、状況によりますね。
 その内容によるのは当然として、相手にもよりますし・・・」

「あはは 難しく考えるな。
 信頼の貯金がとれだけあるかで、裏切りを許せるかどうかが決まるんだ」


信頼の貯金か・・・・
上手い事を言う人だ。

久々に会った先輩は、語り出すと止まらない人だが、
言う事が斬新で的を得ているので、聴いていて飽きる事がない。

しかし、禅問答にも似た会話になるので、その転換の意味を考える必要はある。
そして今日は、何かを私に伝えたいんだな・・・と理解した。


「メシ、食いに行こうぜ。
 まだだろ?」

「えぇ。
 何処にします?」

「俺が中華街で行く店はだいたい決まってんだ」


「華都飯店」
 045-641-0335
 横浜市中区山下町166
 10:00〜21:00
 無休


「ビール! 餃子! それと胡瓜!!」

「胡瓜・・ですか?」

「いいんだよ、食べてみりゃわかる。」


先輩はこの店の常連だ。
だから、オーダーの仕方も簡潔明瞭で意味不明になる。

「キュウリとニンニクの冷菜 」(1600円)は胡瓜の上にニンニクの微塵がのった冷菜で、
シンプルなクセに妙に美味く、ビールにピッタリ合う味だ。


「いいか、良く聞け!
 個性なんて言葉は、最近出来た哲学用語だ。
 むかしは『ひとつ身』と言ってだなぁ・・・・」


どこで、そんな知識を仕入れてくるんだろう・・と思いつつ、水餃子を肴にビールを干す。

胡瓜でビール、餃子でビール、胡瓜でビール、胡瓜で・・・・・飽きるな(^_^;)


「お〜い、キャベツ! ピリ辛のな!!」

「キャベツって・・・」

「あぁ、名前覚えてねぇんだけど、こう頼めばキャベツに唐辛子を仕込んだヤツが出てくるのさ。
 ここは辛さを何種類か楽しませてくれる店で、
 『麻辣麺』って山椒の辛さが効いた麺が美味いんだ。」

「辛いの好きですね」

「おぉ、辛いってお前は簡単に言うが、実は辛いって色々な種類があるんだぜ。
 ただ、日本語には塩辛いと辛いしかないから、その表現ができないだけなんだ。
 いいか、味を表現できないって事は悲しむべき事なんだぞ」

「そうですね。
 確かに、塩辛い物をたべても辛いって言っちゃうし、唐辛子の辛さも辛いって言いますね」

「な〜、だから日本語はダメなんだ。
 だがソムリエの使うワインの表現用言語も随分変だぞ。
 何言ってるかわからねぇから、きっとあれは訳し方を失敗したんだな」

「一種の記号にしか感じられませんからね。
 だから私は、日本酒の表現には女性を利用したりしますけど」

「あはは、根がスケベだからな」


敵いませんね、この人には。

インドには随分たくさんの味の表現があると聞くが、
確かに言われてみると、味の表現に使える専用の単語は少なすぎるように思う。

カラシもワサビも塩も山椒も、同じ単語で通じさせよう・・とするのはいささか乱暴だと認めるし、
ホースラディッシュや生ニンニクの辛さなんて、刺激の方が強くて同類にしたくない・・とさえ思う。


キャベツと言われて出された料理は、ほのかに甘さを感じさせる酢仕立てのソースが、
唐辛子のピリピリした刺激と辛さで調味され、ザク切りのキャベツにかかっているだけの物。

しかし、キャベツの甘さに唐辛子の刺激が面白くミックスされると、
またビールがガンガンと飲めてしまうのだ。


「なー、俺はさ。
 いつもと違う事をして、皆の反応を見てたんだよ。
 誰かが疑問をぶつけんじゃないか・・と楽しみにしてさ。」

「でも、何も起きなかった・・・と?」

「そうだ。
 誰一人、疑問をぶつけなかった。
 いや、どういう事かと言えばだな。
 ちょっとした会社のパーティーで人事発令をしたんだよ。」

「え?
 それはちょっと・・・凄いですね」

「だろ?
 有り得ないだろ?
 普通は発令日にソイツを呼んで、辞令を読んで聞かせて渡すもんだ。
 だが、俺は気まぐれ社長だから、仕方ないだろう・・と皆考えたんだな」

「また、随分と変な事をしましたね。
 どうしてなんですか?」

「うむ、要は社員達全員に、その人事の意味を考えさせたかったんだよ。」

「先輩の会社の事はよく解りませんが、
 安穏としてる社員にケンカを売った・・・って事ですか?」

「あははは
 ま、そんなモノだ。
 お〜い、『麻辣麺』一杯作ってくれ!!」

「さっき言ってた・・・」

「そうだ。
 それがさ、汁が無くて、山椒で味付けされたソースがかかってて美味いんだよ。
 軽く二人で分けて、次行こうぜ」

「まだ食べるんですか?」

「飲むんだよ、決まってるだろ」


「麻辣麺」上に胡瓜の千切りがのった汁無し麺。
しかしその辛さは、確かにキャベツのピリ辛とは全然違う痛み伴うような刺激に溢れ、
これはこれで美味い・・・と思わせる初めて食べる麺料理だった。


「あのさ、俺は悲しいんだよ。
 誰も俺の本意に気付いてくれないって事がさ。」

「あの・・・、それだけマイペースな社長に慣れた社員なら、
 そんな深い謎掛けだって気付けないんじゃないですか?」

「だから、悲しいんだよ。
 いいか?
 決まり事があって、それを踏襲する団体なのに、
 その決まり事を破って社員以外の方々も参加する場所で行った意味はさ、
 誰でも気付けるだろうって思うじゃねえか。」

「どうでしょう」

「幹部連中がたまたま居なかったからかもしれんが、
 しきたりはしきたりなんだ。
 それを私が破る事には、絶対大きな意味があるって、思わんか?」


異動になった後に、偶然出会う事。

その意味すら、私にとっては大きいのに、
さらに大きな謎々が始まったように感じる。

彼の求める答えがどこにあるかは解らないが、今の変化を敏感に感じる上で、
大切な注意を貰ったようにも思える。


「当たり前に通り過ぎる変化を見逃すな
 その変化の意味を考え、場合によってはちゃんと理解すべく、自ら動け」と。


どうやら今日は、新しいレーンに移った私が、
ロードマップの読み方を教えられる日だったようだ。

 
 
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