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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

両方

「ねぇ・・・どっちが良いと思う?」

「そうだね・・・ブルーも良いし、こっちの白も似合いそうだね」

「でしょう。
 どっちも捨てがたいんだな」

「会社用だよね?」

「うん・・・だからこのブルーは、好きな色だけど難しいかなって」

「でも、捨てきれないでいる・・・」

「如何でしょう。
 ご試着なさっては?」

「いいんですか?」


店員に勧められて試着に向かった彼女。

捨てがたいちょっと派手なブルーのブラウスは、
多分この店では売りあぐねている品だろう。

だから店員は、悩んでいる彼女に着せてしまうワザを使ったように思う。

ブラウス専門店に一人で取り残された男は、
実に所在なげで場違いに見えるはず。

まして、ライディングギアを纏い、ジーンズにエンジニアブーツの出で立ちでは、
綺麗なブラウスの海には汚れとしか見えないだろう・・・・


「奥様、お綺麗ですね」

「はぁ・・・・」


居心地の悪そうな私に向かって店員が語りかける。

気遣いは嬉しいけど、いきなり奥様・・たぁどうだろうね。

今やカップルでいる人間の何割が夫婦でいるかなんて解らないのに、
夫婦だと決めつけるのは失敗だと思うよ。

自分がそう声をかけようとするなら、
「素敵な方ですね」と言うな・・・と思いつつ苦笑した。


「ねぇ! どう?」

「お〜派手だね。
 でも、ちょっと豪華に見えて素敵じゃん」

「ね〜、気に入ってるのよ、このデザイン。
 でもウチみたいな堅い会社じゃ、これに合わせるジャケットやスカートは使えそうにない・・・」

「あのさ、ジーンズの上に着てても似合うから、
 思い切って普段着として買ったら?」

「良いけど・・・・高いから」

「本来の目的は会社用だったっけ・・・
 じゃ、この白は決まりなのね?」

「そう・・・・ でもねぇ・・・」

「あれ、白は必要じゃないの?」

「どっちも捨てがたい・・・・。
 ねぇ、こちらも試着していいかしら」


女って、男を連れて買い物するのが好きなんだろうか。
それとも、私が服装について色々意見する事があるからだろうか。

いや、たぶん一人きりじゃ、こうやって着せ替え人形を楽しむ勇気が
あまり湧かないから・・・じゃないだろうか、と思ったりする。


「あの・・・バイクに乗られるんですか?」

「えぇ、乗りますよ。
 あっ・・汚いですか?」

「いえ、そんな事ありません。」

「ボロボロのカットオフだから見苦しい・・よね?」

「確かに・・・・気合い入ったベストですね」

「ごめんね〜」

「実は私もバイクに乗るんで・・・」

「へぇ・・・。
 じゃ、その素敵なブラウスは商売用?」

「えぇ、こんなピラピラしたのは、実は嫌いで」

「あはは で、どんなのに乗ってるの?」

「ハーレーっぽいヤツ」

「アメリカンじゃ、このカッコは気になるよね?」

「えぇ。 その背中のマークって、横浜じゃ有名なんですよね?」

「へぇ、知ってるんだ。
 バカばっかりだって」

「そんな事言ってませんよ。」

「あら、何だか楽しそうね」


そこには白いブラウスを試着した彼女が、ちょっとだけ不機嫌な顔をして立っていた。


「あはは。
 この彼女がバイク乗るっていうからさ。」

「へぇ、そうなの。
 じゃ、同類なんだぁ〜」

「だから、居心地悪そうな俺の相手をしててくれたんだよ」

「ねぇ、どう? これ??」

「白いブラウスは、どれも同じに見える。」

「似合わない?」

「素敵だよ。
 フリルが大きすぎないところが、ジャケット着ても悪くないかなって思うな」

「ね〜、悩むところよね。
 とりあえず着替えちゃうわね」


彼女は、いつも自分が一番じゃなきゃ嫌なタイプ。
だから、店員と話に夢中で気がつかなかった事に腹を立てたのだ。

まぁ、気の弱い女なんてどこにも居ない。
それに、それくらい自己主張の強い女の方が、一緒にいて楽しいのも事実だ。


「ウチのブラウスって、ちょっと高いんですよ。」

「そうみたいだね。
 でも、女性モノのブラウスって高すぎるよね」

「男性のジャケットに相当するモノですから、ある程度は仕方ないんです」

「あ・・そっか。
 男のYシャツってそれだけじゃ許されない事多いけど、
 女性の場合はブラウスだけでも許される事あるね」


でも、一着2万オーバーって凄いよな・・・と心の中でつぶやく。

ジャケットにも相当する・・とすれば当然だろうが、この金額が彼女を悩ましているのは事実。
それだけの価値はありそうな品にも見えるし・・・・


「決まりましたか?」

「う〜ん、どうしよ。」

「もしよろしければ、どちらかを取り置きにしておきましょうか?」


やっぱりこの娘、商売上手だ。
彼女の悩みを上手く突いたトークがとびっきりの笑顔で出てくる。

時計を見ると、もう30分位この店にいる。
腹も減ってきたし、いささか飽きてきた。


「すいません、両方ください。」

「え?」
「えぇ?」

「支払いはこちらで」


あっけにとられる彼女を横目にカードを店員に渡すと、
同じくポカンとしていた店員は、慌てて笑顔を作ってからレジへ向かった。


「両方も買えないよ〜」

「でも、両方気に入ってるんでしょ?」

「だけど〜」

「欲しいモノは見つけた時、手に入れる。
 捨てがたいモノがあるなら、両方買えばいい。
 取り置いてもらって来月買っても、結局両方買うんだから今買っちゃえばいい。」

「じゃ、アナタへの支払いは半分ずつでいい?」

「いいよ。 払いたければ。」

「でも、私も驚いたけど、凄い買い方ね」

「後払いのカードはこういう時便利ね。
 それに、こういう格好で派手なカードを出すと、
 こういう店では特に店員が驚いて面白いんだ。」

「そういう楽しみ方・・・・アリなんだ。」

「世の中、斜に見てるからね」

「じゃ、今度私に何か買ってくれる時は、二つ欲しいモノを見つけとこ。」


やっぱり女は強いや(^_^;)

 
 
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