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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

修廣樹

「たまにはさ、フレンチ食べる気ない?」

「お〜、イイね・・と言いたいとこだけど、
 生クリームやバターどっちゃりは最近苦手なんだよね」

「それは私も同じだけど、ちょっとイメージ変わる店があるんだ」

「へぇ〜  どんな?」

「野菜を美味しく食べさせる事をテーマにやってる店で、
 季節野菜がちゃんと野菜らしい味で出てくるのよ」

「ほぉ・・・・」

「勿論、肉も出てくるけど、全般的に軽い感じでもたれないんだな」

「わかりました。
 そこまで言われたら、行くしかない・・でしょ」

「じゃ、元町に8時ね」

「遅くない?」

「人気があって、予約しなきゃダメなのよ。
 で、取れた時間がソレ」

「了解。 じゃ8時に」


いつの頃からか、フレンチを遠ざけるようになっていたのは、
何となく窮屈な感じがする慇懃なサービスとシツコイ味に象られたボリュームのせい。

だから、結婚披露宴等避けようのない食事会で食べる事はあっても、
わざわざ席を予約してコースを楽しむ・・・・なんて事はまったく考えもしなくなっていた。

しかし、今日誘いをかけた友人は、私にも増して食い道楽なヤツ。

お互いの趣味が似ている事からたまに一緒に食事を楽しむが、
彼女もフランス料理は同じように避けていたはず。

なのに、わざわざフレンチに行こうと誘うのだから、
これは期待できるって事だと、考えた。


「ふらんす懐石 修廣樹」(シュウコウジュ)
 045-664-9630
 横浜市中区元町2-96-1 嶋田ビル2F
 11:45〜14:30(LO14:00)
 18:00〜22:30(LO21:00)


店内は明るく広く、しかし極端に豪華に飾られるわけではない。
30名程度が入れるサイズで、客層はモロ、フレンチを食べに来る感じの客ばかりだ。

コッチの出で立ちはジーンズにカットオフ、彼女もTシャツにジーンズだから
ドレスコードを切り出されるか・・・と少しばかり不安を覚えた。

が、店側はそんな素振りを一切見せない。

ヨシッ さすがは元町のレストランだ(^_^)
(山の上の金持ちが、こ汚い普段着で食事に来る街だから、
 格好でどうこう言う店は横浜の老舗にはあまり無い)


<卯月の懐石>(4500円)

「アミューズ・グール」
「桜の香りを散りばめた季節野菜のエマンセと姫鱒のマリネ、”立体的な平面”」
「新玉葱の冷製スープとそのエチュベ、ブランマンジェにタイムと胡椒のアンフュージョン」
「三浦の春キャベツのコンポジション、仏産・鶉(ウズラ)の網焼きとコニャックを効かせたジュ」
「”スケッチ・オブ・プロヴァンス”」
「珈琲」


え・・・と、
この中途半端にフランス語や英語を交ぜるメニューはやめてくれ。

(アミューズ・グール:突き出し/オードブルの前に出る小品料理
 エマンセ:ごく薄く切ったもの
 エチュベ:蒸し煮
 ブランマンジェ:菓子の 1 つで クリーム状の白ゼリー. コーンスターチ・
         ゼラチン・牛乳などを混ぜ, 冷やし固めた物
 アンフュージョン:煎じる
 コンポジション:組み立てる
 ジュ:肉・野菜・果実の搾り汁 もしくは肉汁)

懐石と名を打って、箸まで出してくれるんだから、もうちょっと解りやすい書き方しようよ。
・・と文句を言いたくなるが、フレンチを食べてる気分はこういう所にも演出されるのかも知れない。


丁寧に料理を説明がされ、それぞれの料理がサーブされるが、一貫して驚かされるのは「野菜の確かさ」。

アミューズ・グールとして出された赤蕪を食べた瞬間、野菜らしい味と歯応えの競演に驚かされ、
2品目では、決して素材の味を邪魔しない酸味で仕立てられ、野菜や姫鱒が上手く美味しさを盛り上げていた。


「ね? 野菜がしっかりしてるでしょ??」

「そうだね・・・・いや、驚いた。
 それに、ちっともシツコクないね。」

「もう一年位前に一度ココへ連れて来られて、
 絶対コレは食べさせたいって思ってたの。」

「ちょっと塩がきつい感じがしても、
 ちっとも嫌じゃないのは相当上質な塩を使ってるね。」

「どうだ・・・美味いだろ〜」

「恐れ入りました」


こうなるとスープが楽しみだ。

スープは洋食の基本。

出汁も塩加減も作り方も全部現れてしまう一品だから、
初めての店ではスープを飲んで店の格を計る事は多い。

そして・・・・ビシソワーズスープのような新玉葱のスープと
タイムと胡椒の効いたスープに浸かったブラマンジェが出てきた。


「うわ!?」
「甘!!」

「何だコレ?
 スッゴイ甘いね。」

「美味い・・・・」

「コレにパスタ入れたら美味いだろうな・・・・」


ギャルソンが、玉葱のもつ甘さの多彩さを楽しんでくれ・・と説明した意味が良くわかる。

スープにも蒸し煮された玉葱にも、同じ玉葱でありながら違う表情をもつ甘さと旨味が溢れている。

そして、ブラマンジェにされた玉葱は、
タイムと胡椒の効いたスープが無ければデザートと勘違いする甘さを見せていた。

なのに、しっかり玉葱で、もの凄く美味い。


「当たりでしょ?ここ」

「うん。 
 何だか、この一品だけで満足できちゃうね」

「アラカルトが頼めれば、コレとパンとワインだけでいいかも」

「そう言えば、ここのパン、美味しいね。
 ちゃんと暖かくなってるし、バターも美味しい」


レストランでパンを出す時、暖めてくれない店は多い。
そしてそういう店は、食事を総合的に作り上げる意識に欠けている事も多い。

そういう点で見るとこの店は、今まで経験した中に於いて、かなりの上位にランクできる。
そして味も、文句無く上位にランクして良い。


メインとなるウズラは、臭みも無く美味しく焼かれ、
キャベツの温野菜と共に素晴らしいハーモニーを見せた。

デザートのパレットはフルーツトマトとイチゴ、アイスクリーム等をあしらってバルサミコ等で
料理と勘違いしそうな出来映えであったが、野菜の可能性をここでも広げて見せた。

そして、蓋付きのカップで出されたコーヒーがまた、下手な喫茶店が逃げ出しそうに美味しい。

コースの全てに気を遣い、最後のコーヒーまで吟味されているレストランは滅多にない。
ホテルのメインダイニングでさえ、最後のコーヒーは美味しくない事があるのだから、
その考え方は見事だ・・・と、心から思った。


「前からこの店の前はよく歩いてたんだけど、ちっとも気がつかなかったよ。」

「2階にあるって不利よね」

「何だか、美容室のように見えて、レストランだって思わなかった。」

「でも、これだけ客が居るし、予約取らなきゃ入れない・・」

「妙に居心地がいいんだよね・・・・
 あれ? ココ禁煙??」

「言えば、灰皿持ってきてくれるよ。
 ただ・・・誰も煙草吸ってないね」

「そうか・・・
 デザートコースに入って店が灰皿を持って来なければ、煙草は吸えない店だ・・・
 と考える客が多いって事だね。」

「結局、客の質・・・なのかしら?」

「これだけ繊細な味を楽しもう・・と思ったら、普通は煙草を吸う気分になりにくい。
 マナーとしても許されていない事だし、煙草は、食後にバーで飲む時に吸えば良いんだし・・ね」


食事は美味しく食べて欲しい。
店では気持ちよく過ごして欲しい。

そんな単純な想いが溢れる素晴らしい店は、
その想いを受け止め、十二分に楽しめる客が集っている。

支払いを済ませて帰る時、道に降りるまでギャルソンが見送ってくれた事を見て、
この店の望む形の素晴らしさを垣間見た気分になれた。

 
 
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