21:45 首都高速。
銀座入口から入って横浜を目指す。
22時に食事の約束をしているヤツがいるから、
ちょっとばかり飛ばすしかない。
「ゴメン、今、浜崎橋を通り過ぎたばかりなんだ」
「じゃ、10時にはつかないね」
「そうだね。
でも、そんなに待たせずに辿り着けると思うよ」
「速いのは知ってるけど、無理しなくていいからね」
無理じゃないって、楽しみなんだって!
道はまだ所々濡れているけど、ちょっと駆け足で散歩するようなものさ。
天王洲の緩やかなシケインを100マイルオーバーでスラロームし、
動くパイロンのタクシーを蹴散らしていると、瞬間的に蘇る記憶があった。
「しっかし、暗い道だよな・・・」
「あぁ・・」
「これで高速っていいんかね」
「金取らないから街灯もない・・・のかな」
「その先、水溜まりができる所あるから、気を付けろよ」
「大丈夫 大丈夫 ラリー用のタイヤだから水はけいいって」
「いや、すっごい溜まるんだよ、そこ。」
「ふーん」
「ほら、この上りを越えて下りきった辺り・・・」
「大丈夫だって」
ダン!
と派手な音をさせてレビンが水溜まりに飛び込んだ。
保土ヶ谷バイパスは昔、IC以外には街灯が無く、
雨が降るとすぐ、大きな水溜まりができる道だった。
それは大概中央分離帯の脇にでき、水深は70タイヤが余裕で埋まる程にもなるので、
右側の車線を走っているとハンドルを取られたり、対向車線から水はねをモロに喰らったりしたのだ。
ラリー車のベースになるレビンという車は、当時としては珍しいツインカムエンジン搭載の小型車で、
軽いボディーを生かしてキビキビと走れる優秀な車だった。
が、それは当時のレベルでの話。
リアサスペンションは板バネで、ちょっと派手なジャンプでもしようものなら、
リアだけが凄い勢いで跳ね上がり、ドライバーは路面しか見えないような挙動を見せるじゃじゃ馬でもあった。
「うわぁ!」とドライバーが叫ぶ。
彼を見ると、右側前輪だけ急ブレーキをくらって左に滑り出す車両をコントロールすべく
派手なカウンターをあてているのが見えた。
ハイドロプレーニングだ。
言わんこっちゃない・・・
ハンドルそんなに切っても真っ直ぐ進んでるじゃねぇか・・・
水溜まりが切れる瞬間にハンドル戻せよ・・・・・
そう思った瞬間、水溜まりを通過しグリップの戻った前輪が
車両を思いっ切り左に旋回させた。
速度にして110km/h程度。
濡れた路面で突然ハンドルを90度以上切ったようなものだから、
レビンはいとも簡単にスピン状態に陥った。
「やべ!」
「うわ!」
二人同時に意味ない叫びを上げても、
回復不能な状態に陥った車は、空しく慣性の法則に従って滑っていく。
そしてクルッと真後ろを向いた車は回転をやめずにそのまま滑走した。
真っ暗に見える道を背中向きに100キロ程度で滑っていく恐ろしさ・・・・
そして、自分が運転していないもどかしさと後続車が遙か彼方にしかいないホッとした気持に、
少しだけ理性蘇ってきた。
待てよ・・・・ここらの路肩は、未舗装でしかも下ってる。
運良く本線から外れても、そこに落ちたら自力で出れないかも知れない。
いや・・・最悪でんぐり返しになるかも知れないぞ・・・
道路上に停まったらあの後続車に追突されるかもしれない・・・し、
それよりいつまで後ろ向きで滑っていくんだよ・・・・
グルン!とまた車は回転し、今度は進行方向を向く。
やった、うまくこの状態を脱した!
凄いぞ!ドライバー!!
と安堵した瞬間、もう一度車は後ろを向いた・・・・
ドッガァン!!!
爆発音に似た衝突音が社内に鳴り響き、シートバックに身体が叩きつけられる。
そして、さらに車は半回転し、進行方向を向いて停止した。
外に飛び出し、車の状態を確かめると・・・
車両の右側後部の角が、ガードレール型に綺麗に凹んでいる。
そして、私達の立っている場所は、
未舗装部分に作られた緊急避難場所として舗装された場所だった。
「だから、気を付けろって言ったじゃねぇか」
「気を付けたんだけどさ・・・」
「あ〜あ、ベッコリ・・・あはあはは・・」
「直さなきゃな・・・あはははは」
恐怖が去った後、少なくとも怪我は免れないと思っていた緊張感が解け、
二人は雨の中で笑い出してしまった。
奇跡的に、車の後部の凹みとフロントフェンダー&ドアの傷だけで、
身体にはなんの問題もなく最悪の事態を脱出できたのだ。
横羽線は狭いクセにコーナーがきつく、慣れてない人間にはその速度でも恐怖を感じるルートだ。
だからここを、110マイル程度で走れば、トラックでさえ道をあけてくれるのだ。
一カ所あるオービスをパスすれば、後は100マイルスラロームが楽しめるお気に入りルートとして
東京から帰る時は、わざわざ湾岸を通らずにこっちを選ぶ事も多かったりする。
小雨の中、生麦のシケインでスラロームを切っても、今のタイヤは破綻する気配も無い。
最近の車は横滑り防止装置が搭載され、それでなくても滑りにくいと聞くが、
私の車にはそこまでの装備はないにも関わらず、まったくと言って良いほど不安感が起きないのだ。
進歩はあまりにも進みすぎ、道交法や道が追いついていない・・・と感じてしまった。
あの時、今の様なタイヤをヤツが履いていたら・・・、今の様な車に乗っていたら・・・・、
あんな事故は起こさずに済んだのだろう・・・・・か?
いや・・・そんな事は無い。
どんな良い車に乗っても、運転する人間次第で事故は起きる。
何故なら、人間には恐怖心があるからだ。
安全に簡単に速く走れても、それは余計な高速走行を招くだけ。
自らの腕を認識せずに、車任せでスピード出しすぎている人間は高速道路に捨てるほどいるのだ。
そして、ある瞬間、突然起きたアクシデントで、
恐怖によって正常な動作ができなくなったら・・・・・
古い横羽線は、そんな車に乗せられてるドライバーを拒絶する。
狭い道幅と先の見えないコースレイアウトがドライバーの恐怖心を煽り、
意のままに車両を扱えないと現実的に事故になりやすい。
結果的に、リミッターが効くまで踏みっぱなしの普通ドライバーはスローダウンするしかなく、
ハイスピードランナーにとって、ここを速く走る事はちっとも難しくないのだ。
「ついたよ〜、今どこ?」
「あれ・・早いね。
まだ、10時5分だよ」
「早くないって。
ゆっくり走る車が多くて、あんまり踏めなかったよ」
「ハイハイ、そうでした。
どこに居ればいい?」
「今、シェラトン裏・・・・」
お互い、走りすぎに注意しましょう・・・という事で(^_^;)
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