仕事を覚える・・という事は、山ほどの失敗をしてその都度何故失敗したかを理解し、
二度と同じ間違えをしないように努力し続ける事だと思っている。
ところが最近の若者達は、失敗しても「教えてもらわなかったから」と言い切り、
失敗の原因を自ら追及する考えすら無かったり、そのミスによって追い込まれる窮地を脱しようと、
バレバレの嘘をついてみたりする。
学校の成績で一生が決まってしまう・・・と言った考え方が蔓延した結果、
記憶力の優劣で順位を決めてしまうような錯覚が生まれるのは仕方ないとしても、
現場に出れば人間関係をどう構築していけるかの方が大切だ、と気付いて欲しいのだが・・・。
土地本位制の日本が、バブルというバカで強欲な愚行を犯し、
土地の値段が下がる・・という日本経済の原則を破壊して以来、
一流企業がドンドン傾き、銀行の倒産まで起きてしまったのは周知の事実。
そしてそれは、どんなに勉強ができて良い会社に入ったとしても意味が無い・・
という現実的な考え方を若者に与えてもおかしくない。
そんな事もあってか、「教えてもらわなかった」攻撃はしっかり残りつつも、
手に職をつけようと頑張る若者が増えているのも現実だ。
「すいません、まだよろしいですか?」
声の主を見れば、今時の若者にしてはピシッとした感じがする男性が一人。
私が座ったカウンターの隣で、板長の許可を貰うまで座る素振りも見せずに立っていた。
「はいどうぞ。
そちらの席でよろしいですか?」
「えぇ」
「ラストオーダーになりますがよろしいですか?」
「はい」
「何かお飲みになりますか?」
「それでは・・・十四代を」
この店に置いてある「十四代」は「中取り」で2500円もする高価なモノ。
そんなに贅沢をしそうには見えない感じだが、迷わずにソレを頼むのは面白いと思った。
「あの、何か今の時期のモノを二品二カンずつ握って頂けますか?」
「はい、わかりました。」
この店は、変わり寿司がメインの寿司バー。
不景気なのに客が多いのは、常にコストダウンとクオリティの保存に気を遣うためで、
今日も見た事のないメニューが出て、その変わり身の早さに驚かされたばかりだ。
2000円出せば、そこそこのコースが用意されているのに、さらに高価な酒を頼んだ上で、
4カンで1000円程度の握りをお任せでオーダーするのは変わっている。
最初は飲み専門の客か・・と思ったが、彼の髪型を見ていて気がついた。
(前髪こそ持ちあげているが、キッチリと短く切られ、色もパーマもあててない)
・・・コイツ、料理人の卵だ。
「あの、二カンずつ・・とお願いしたのですが」
「あ・・申し訳ありません。 今、握ります。」
「いえ、もしよろしかったら、残りの二カンを鮃と中トロにしてもらえませんか?」
「はい、では鮃と中トロでご用意させていただきます」
本来なら店を閉めている時間に来た客だからか、
珍しくオーダーを間違えて出した板長に、さっきとは違うオーダーを出す若者。
最初からソレをオーダーする気だったな・・と思うのは、
ネタケースを一瞥してすんなり指定したからだ。
鮃と中トロ・・・・か。
仕事と仕入れの確認をするんだな・・・
白身魚は熟成で味が決まるから、寿司屋では最初に白身を頼む事が多い。
(白身とコハダで、その店の味はだいたい解る)
中トロは、単価が明記してあれば、仕入れの考え方が解りやすいし、
切り身の大きさや厚さでどう調整するかも見えて面白いのだ。
きょろきょろと店を眺め、酒も握りもじっくりと味わう彼。
それは、ただ研究熱心なだけの若い客にも見えるのだが・・・・・
「あの・・・お願いがあるんですが」
「はい、何でしょう?」
「そちらの『本日のおすすめ』(品書き)をいただけないでしょうか?」
え?
店のメニューが欲しいって・・・・??
「ちょっとお待ち下さい」と板前はファックスにそのメニューを突っ込んでコピーを取り、
原版の方を若者に渡した。
これには驚いた。
わざわざメニューをコピーして渡す店なんて初めて見た。
板長も、この若者が勉強のために来た事は、最初から解っていたのだろう。
勉強になるなら・・・と店にとっては出しにくい資料を渡す行為は、
今時珍しい若者に対する先輩からのエールに見えた。
まだまだ世の中、捨てたもんじゃないらしい・・・ね(^_^)
「海華月・其の弐」
045-412-6883
横浜市神奈川区鶴屋町 3-29-11大和ビル1F
[月〜金]朝11:30〜昼2:00,昼5:00〜深夜0:00(フード LO夜11:00,ドリンクLO夜11:30)
[土日祝]昼5:00〜深夜0:00(フードLO夜11:00,ドリンクLO夜11:30)
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