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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

前向き

いつも前向きで生きる事。

それが、老化を遅らせる一番の方法だと思うが、
今日話した先輩は、それを地でいっているような人だった。


不景気の煽りを食って、持っている会社の所在地を変更すると言うが、
新しい場所は、安くて商売には有利なロケーションとなるらしい。

しかし、社屋が少しばかり安っぽくなって、見栄えが悪くはなるので、
部下達はその事が気に入らない・・と文句を言うらしい。

どんな一等地に会社があっても、商売に繋がらなければ無駄な事。
そのコストが利益より大きかったら、会社としては存続の危機を迎えるのは当たり前。

そんな単純で解りやすい結論に対しても、従業員のプライオリティは揺るがないらしく、
彼は口頭による説得を中断し、現地へ幹部を連れていったのだ・・と言う。

商売を営む上で大事な事は、その商品にどれだけ付加価値がつけられるか・・という事。

それが、販売店の所在地だけで付くか・・と言えば有り得ないのは明白で、
そのためのロケーション設定が重要だと彼は言うのだが・・・・


「場所はさぁ、実は港の近くなんだよ。
 だがその場所は、実に雰囲気の良い場所でさ。
 その雰囲気にピッタリ合うオフィス&販売店を、作ろうと思ったのさ。」

「倉庫を利用したロフトっぽい奴ですか?」

「それも有りなんだけどさ、もっとそれっぽい物があってさ・・・」

「?」

「トレーラーの上に載せるコンテナってあるだろ?
 あれだよ」

「それじゃ、オフィスビルからコンテナハウスに移転する・・んですか?」

「ほら、お前だってそういう反応するだろ。
 だから解ってないんだって。
 40フィートコンテナの中を、マンションと同じ工事で内装すると凄い物になるんだよ。
 エアコンも完備するし、風呂だってつけられる。
 そして積もうと思えば5段から7段くらいは積めちゃうんだな・・・」

「港に有るなら、違和感はないですね。」

「でさ、面白かったのは、総務部長よ。
 堅い仕事ばかりやってる奴って、どうしても外見で判断するだろ?」

「私はそんな事ないですよ」

「お前は例外! ま、聞けよ。
 ソイツが一番移転に対して反抗していたんだが、連れていったのよ、ソコに。
 もともと販売店をソコにも作ろうと用意していたんだけど、俺の隠れ家用に・・と
 家みたいに作っておいたのさ。
 それを見せたらさ・・・・一発よ。」

「ロケーションの雰囲気より、内装の凄さにやられちゃった・・・と?」

「ま、内勤ばかりやってる奴だからさ、居住性は大事だよな。
 それと車、停め放題だし、自分で駐車場借りなくてもいいぞ・・と言ったらさ・・」

「一等地じゃなくても良い・・と気付いた・・と」

「違うさ。
 販売店を置くには一等地なんだよ、そこは。
 そして、扱っている物にはインポート物も多いからさ、
 港にあるって事がプラスに繋がる・・・と奴も理解できたのさ。
 要は、大事な判断をする時、自分の日々を想像しながらやっちゃダメなのさ。」


今までは、企業名だけでも商売できるような所であったのに、
生活必需品を扱っていないため、消費の冷え込みに従って商売にならなくなった彼の会社。

見渡せば、日々安穏と仕事をしていられた歴史は、従業員の想像力すら奪っている事に気付き、
社員一丸となって新しい道を切り開こう・・・と提案すためにも、移転する先を熟慮していたのだと言う。

しかし、彼が元々その地に目を付けたのは、もう随分前の事。
今の状態を中期的展望から予測していたのだから、経営者とは恐ろしい物だと感じた。


「この4月から、会社命令で常時スーツを着るようになったんですよ。」

「それでお前がそんな格好をしてるのか」

「まぁ、こっちとしては楽しんでますし、総務に徹する事で良いみたいなので気楽です。」

「何でもやりますって意思表示でもあったのにな。
 でも、会社ってそういう部分はあるから、仕方ないな。
 たださ、急にそういう形を大事にするようになった会社って危ないぞ。」

「どうしてですか?」

「席替えだとか引越だとか、着てる物への細かい命令とかを出す経営者は、
 会社を律してとにかく頑張ろうという意気込みはあっても、
 何をすべきかが解ってないのに何かしないと不安だから、そういった命令を出す事が多いのさ。」

「引越・・は、なさるんですよね?」

「おっと、コッチへ飛び火したか。
 俺が言いたいのは、後ろ向きな対策は延命措置になったとしても
 発展するキッカケにはならないって事だ。
 社内を厳しくして何か対策したつもりでも、支障が増えるだけで逆効果。
 人間誰でも、楽な環境じゃないと効率は落ちるからな。」

「そりゃ、そうですね。
 4月からコッチも厳しくいくよ・・・とスーツ着て恐い顔してると、
 なんとなく空気が硬くて、居心地は悪いです。 自分でも。」

「だろ?
 ウチはオフィスビルをコンテナハウスに変更する事はコストダウンには繋げるが、
 それは主たる目的ではないんだよ。
 俺としてはロケーション第一で、別店舗を持つ余裕が無いから本社機構を移すだけなのさ。」

「柔軟な発想が無くちゃ、乗り切れないって事ですか?」

「そうだ。
 ただ、人間ってやつは、見た目で騙される奴が多いからなぁ・・・
 お前のスーツ姿を見ると、不安にはなるがな」

「どういう意味ですか?」

「個人の能力を十二分に使うより、形を大事にしてるって解るからさ」


彼が、会社の移転を不景気だからするのでは無い・・という事は、
彼の常に前向きな考え方を知っているから、よく解る。

簡単に前向き・・と言うが、客観視できる目と深い洞察力があって初めて、
未来を予測する土台ができる・・と言うもの。

最近、その「客観性」に乏しくなっているな・・と気付けたのは、
久々に会えた「常に全開で走る先輩」に会えたからかも知れない。

 
 
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