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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

天麩羅 みその

ここ数年、カウンターで天麩羅を食べていない。

何故か同席する客が無粋で、
その都度嫌な気分にさせられたのがその原因だ。

7人でいっぱいのカウンターで両隣のカップルがブカブカ煙草をふかしたり、
調理中の板前に自分の酒を飲ませようとする様を見せられる事ばかり続いて、
天麩羅を好む客は傲慢な奴ばかりなのか・・・と変なイメージがついてしまったのだ。

勿論、そんな席で頼むものはコースなので、
途中で抜け出すのも腹立だしい。
(途中で勝手に抜けたら、こっちが損するばかり)

で、結局、天麩羅は蕎麦屋で食べるようになってしまった。
なんたって私は、海老の天麩羅が好物なのだ。


「昨日さぁ、紅葉坂の開洋亭で気になる店をみつけたんだ」

「ほぉ・・・、開洋亭か、ここ数年行ってないな。
 景色の綺麗なバーがあるんだよな」

「それもいいんだけどさ、天麩羅屋があるんだよ。
 しかも場所が場所だから、空いてそうでさ・・・」

「それじゃ、誕生祝いって事で行きますか?」

「勿論、そういう誘いですが」

「天麩羅みその」(オリエントホテル横浜開洋亭10F)
 045(243)1122(ホテル直通)
 11:30〜14:00 17:00〜21:00
 11:30〜21:00(土・日・祝・祭)


小高い丘の上に立つオリエントホテル横浜開洋亭は、
その立地条件から一般客は少ないだろうと想像できた。

石畳の紅葉坂を上るのは結構大変だし、駅からも少し距離があるのだ。
だから、特に目当てが無い限りは、わざわざここまで来ようって人は少ないだろう・・・と。


「あれ・・・誰も居ない」

「おい、ここ大丈夫か?」

「いや・・・昨日は婚礼の客で溢れてたんだけど・・・
 ま、空いている方が好都合だから、店に行ってみようぜ」


ホテルのロビーには客が一人も居ず、フロントにも一人が付いているだけだった。

そこまで人が居ないと店を閉めてるんじゃ・・・と不安になりつつエレベーターを降りると、
眺めの良いバーには若干客がいる。

その人影にほっとしつつ同僚二人と「みその」に向かったが・・・


「マジ、ここって経営していけるのかな?」

「う〜ん、不安になってきた」

「月曜の7時半に客が一人もいないって・・ねぇ」


そう、客が一人も居ない店に入ってしまったのだ。

こういう場合、判断は迅速にしなくてはいけない。
出るなら今しかないが、頭の中では何年ぶりかの天麩羅が飛んでいる。

店員が、テーブル席を用意してくれるが、
こっちとしてはカウンターで天麩羅が食べたいので、判断基準として声をかけてみた。


「すいません、天麩羅を頂きたいのですが」

「そうですか、それではカウンターの方がよろしいですね」


そのままテーブル席で天麩羅コースを出すような店だったらすぐ出ようと思ったのだが、
あっさりとカウンターを勧めてくれるから、食べてみる気分になれた。

野毛方向が見渡せる窓を背にする形で
天麩羅用の大きな鍋が中央に設置されたコの字型のカウンターに座る。

ネタは見えず、板前も居ない・・・
鍋の横には溶いた衣が置きっぱなしだ・・・

と、川谷拓三そっくりの板前が出てきて、油の入った鍋に火を点けた。


オーダーしたのはコース「まさかき」(6000円)

お通し
車海老3尾
野菜5品(アスパラガス・小玉葱・ふきのとう・マイタケ・レンコン)
魚3品(メゴチ・穴子・小柱の海苔巻き)
かき揚げ
食事
デザート

という感じだから悪くはないが、客が全然居ないと出来が不安になってくる。

店は、6000のコースが3人で入ったので俄然やる気を見せだしたが、
照明が天麩羅カウンター前だけ明るくて後のテーブル席が暗いので、なんとなく寂しい感じは拭えない。

ビールで喉を潤しているうちに板前が突然衣用のタネを持った。

そのまま使うのか?
どうなんだ??

とコッチも注視する中、彼は当たり前のようにそのタネを捨て、
冷蔵庫から水と卵を出し、ボールで溶き合わせた後、冷蔵庫から出した小麦粉を溶いた。

勿論これは天麩羅の基本だけど、一見の客だから・・と手抜きをしないのは嬉しい事。

そしてそこから、まず車海老2尾を揚げる動作が始まった。

生きた海老を向き、出刃で背中に切れ目を細かく入れ、
布巾で水分を取りつつ頭と足を素揚げに入る。

身は粉をまぶしてからタネをつけると無駄な動作をしないで、
最短距離を通しながら鍋に入れた。

素揚げされた頭と足は、まだプチプチと音を立てている状態でサーブされ、
海老本体はカラッとした衣の中で十分にジューシーに揚がっていた。

良かった。
ココ、当たりかも知れない。

ふっと見ると同僚達もその美味しさに笑みを浮かべている。


天麩羅は脱水作業だから、揚げ方一つで味が大きく変わる物。

個人的には中は生っぽくても冷たくなく、
衣はカラッとでも硬すぎないように揚げてもらいたいのだ。

客は3人しかいないからできる事なのかもしれないけど、
見るからに口下手で愛想笑いも苦手そうな板前の丁寧な仕事がその味を裏付けているようだ。

よし!
ココは鍛え甲斐があるぞ・・・(^_^)

他の客が居なくて味が良いなら、私にとっては理想的な店になりうるのだ。


「昨日、ちょっと仕事で覗いて気になったんで来たんですよ。
 今日はウィークデイなんで空いているのですか?」

「えぇ・・ 週末ほどではないです・・・
 昼は、お客様が多いのですが・・・」


そうか、やっぱり夜は空いてるんだな(笑)
これでプライベート天麩羅スペースの出来上がりかもしれない・・・(爆)


彼の仕事がしっかりしていると気付いたのは、アスパラガスを食べた時だ。

水分の多い野菜の天麩羅がホクホクとした食感に熱々の加熱具合で美味しくいただけるのは、
久々にカウンターで食べた事を割り引いても素晴らしいと思えるのだ。

飲みきってしまったビールの後に「田酒」(5000円/4合)を追加してゆっくり天麩羅を楽しんでいたが、
コチラが「美味しい」と呟いていれば板前も安堵の色を顔に載せだした。


「こちらは天麩羅がメインなのですか?」

「いえ、板長が和食なので、仰っていただけば何でもできます」

「そちらにステーキなんて札が出てますが?」

「反対側の鉄板焼きから持ってこれるので、載せています」


喋れないだろうな・・・と思っていた川谷拓三が、こちらの笑みにつられて喋りだした。
どうやら、ファーストコンタクトは成功を収めたと言って良いらしい。

こいつは春から縁起がいいや(^_^)

 
 
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