ある日、反町で飲み直す事になって、友人とタクシーを使った時、
問題の車がタクシーストップに停まっていた。
すっと開いたドアに近付くと何か雰囲気が違う。
室内が真っ黒な事も気になるが、
タイヤがホイールアーチぎりぎりで車高が落ちている事が解る。
えぇ?・・・と思いながら車をよく見ると、白のクラウンアスリート。
室内がよく見えなかったのは、黒の本革のシートとトリムに
サングラス化されたサイドウィンドウのせいだ。
ボジションランプには青い電球まで仕込まれ、
ただ者ではないイメージ満載となっている。
そしてその車は、
素晴らしい加速と乗り心地で二人の酔っぱらいを反町まで運んだ。
「あれ、ふざけた車だったよな」
「TRDでチューンした・・とか言ってたね」
「特注のシートだし?」
「しかしあそこまでやるかね・・・」
「商売物とは思えないね」
「バカだよねぇ・・・」
ロイヤルアスコットで飲み過ぎて電車が無くなる時間になると、
ホテル前で待つタクシーを使う事がよくある。
確実にタクシーが居てくれて、
深夜に近場でも怒らない運転手が多いのは有り難い。
(ホテル側で調整しているのかも知れないが、質の悪い車に当たった事が無い)
だが、そんなマニアックなタクシーに出会った事は過去一度も無く、
願わくはもう一度・・・と願うのだが再開はできなかった。
だから、その友人と飲んでいて帰り時間が近付くと、その話題が決まって出る。
二人とも速い車には目が無い方だから当然だが、
同じ趣味を持つタクシードライバーとは、話をしたくて仕方ないのだ。
「そろそろ上がる?」
「そうだね。
電車なくなりそうだし・・・」
「そうか、いつもよりちょっと早いな」
「歩ける奴はいいよな」
寒い時期はあまり歩かないんだな・・・と内心苦笑いしながらロビーへ出ると、
青いポジションランプを点けた白いタクシーが停まっているのが見えた。
「おい!あれ!!」
「おぉ〜、もしかして?」
そう、再会できない・・と諦めていた車が、ウェイティングポジションに停車しているのだ。
「今日はタクシーで帰る」
「やっぱり(^_^;) 反町まで乗せてって」
「もちろん」
ここで乗らないと、次、何時乗れるかわからない。
奴が乗らなくても、自分で乗るつもりだった。
「お願いしま〜す」
「どうぞ。 どちらまで?」
「この車、TRDチューンですよね?」
「え?
どうしてソレを・・・」
「以前、反町の飲み屋まで送ってもらったじゃないですか。
その時教えてくれたでしょ?」
「あ〜、あの時の(^_^)」
せっかく特注で入れた本革シートだからシートカバーは掛けないし、
足回りもしっかりしなやかな動きがするように組み直してある。
以前よりブーストを上げた(0.9だとか)ターボは胸のすくような加速を見せ、
そのくせ恐ろしく静かで乗り心地も申し分無い。
「0.9だと食うでしょ〜?」
「リッター4Kmは無理ですねぇ」
「商売にならないんじゃ・・・・?」
「好きですから・・」
好きな事を仕事としてやれる事はどうだろう?
嫌な事をやるからお金がもらえて、
それから開放されるから仕事後の一杯は美味いのでは・・・?
でも、演出をやったりカメラをやったりする事は楽しくて、
仕事上の辛さは克服しやすかった。
結局楽しい日々でありながら、辛い毎日かも知れない・・・・な(^_^;)
でも、乗客としては大歓迎。
煙草の匂いが染みついたボロボロタクシーに乗るより、
本革シートの匂いに包まれながら加速に酔う方がイイに決まってる。
問題は、次に何時、このタクシーに乗れるか・・・だけだな(爆)
|