「週末の深夜にやってた番組で紹介された店、行ってみないか?」
「珍しく電話してきたか・・と思ったら、いきなり何だよ?」
「横浜の西口辺りに、北海道の魚を食わせる店があるんだよ。
調理場の雰囲気見ると美味そうな感じだったからさ・・・」
「で?」
「横浜駅西口ったら、お前の庭だろ?」
「案内しろ・・・と?」
「高すぎたら、俺が少し余計に持つからさ」
「お? 言ったな? 持つって言ったな?」
「全部じゃね〜ゼ」
ここのところ、がっかりする事ばかり続いているから、
新規開発のお供は有り難い申し出だ。
前のイメージが無いなら、純粋にその店の判断ができる。
美味ければ懇意にすればいいし、許せなければ二度と行かないだけの事。
「割烹 いりかせ」
045-322-9851
横浜市神奈川区鶴屋町2−20−1 YTUビルB1
17:00〜23:00(L.O.22:00)
日、祝休
鶴屋町2丁目のビルの地下・・・と言われて、大体の位置は見当がついていた。
以前、シェーカーでマンハッタンを作る変なバーがあったビルに違いない。
奴と其処へ行ってみれば案の定、そのオフィスビルの地下に店舗があった。
ちょっと上品な造りの入り口から入ると、正面がカウンターで右手にテーブル席が2つ見える。
が、店員がバタバタしていて相手をしてくれない。
で、どうした物か・・・と少し立ち尽くすと、こっちに気付いて店員が寄ってきた。
「・・予約・・・? ・・・ですか?」
「いや、予約はしてませんが、予約のみなんですか?」
「いえ、大丈夫ですよ。
個室・・・・にしますか?
か・・・テーブルか、カウンター・・・・で?」
見れば左手方向には個室が何部屋かありそうだ。
こっちは一見だから、誰も座っていないカウンターの一番奥を所望した。
(其処が、一番仕事を覗けそうだし、末席のようにも見えたからだ)
カウンターに座ると、目の前には磨りガラスの目隠し。
そしてその奥には板長らしき人がいるのだが、何やら店の人と話し込んで見向きもしない。
「なんかさ、俺達って来ちゃいけない客なんだろうか?」
「いや、それは俺の格好が格好だから・・じゃないかな。
そこのテーブル席に座ってる客は、もろサラリーマンって感じじゃん。」
「俺、スーツで来れば良かったかな」
「柄の悪さは隠せないだろ?」
やっと持ってきたメニューを見ると、随分と料金が素晴らしい。
一番安い物でも1000円だから、下手に料理を頼むよりコースにしてしまえ・・・という事になった。
「しかし、有る所には有るんだなぁ・・・」
「?」
「酒さ。 石田屋(18000円/4合)はあるし亀の翁(9500円/4合)もある。」
「黒龍のしずくも9500円かぁ・・・ 高いんだか安いんだか解らない店だね」
「高いよ。」
「高い・・な、やっぱり」
「しかしだ・・・感じ悪い店だな。」
「俺もそう思ってた。 なんか女将が挨拶した後、小娘に『なんで個室に・・』って言ってさぁ」
「俺も聞こえてたよ。 それよりあの板長、目も合わせやしない。」
「帰れって事かな?」
「まぁ、食ってみようぜ。 酒も良いし」
結局酒は「天狗舞・山廃吟醸」(7500円/4合)をオーダーし、
コースは一番安い(と言っても6000円)「すずらん」にした。
スポンサーが居ないと、こういう店には来づらいなぁ・・・やっぱり(^_^;)
「お通し」(出汁巻き玉子)
「先付け」(エシャロット、塩辛めんたい、練り物)
と出て、久々の天狗舞を楽しむと、そんな扱いの事も忘れて会話が弾んだ。
出汁巻き玉子の味付けからすると期待ができる・・・かな?
「お椀」
「お造り」(蛸、甘エビ、鮃、縞鯵)
次に出てきたのが、何だか解らない具が入ったお椀。
麩のようでそれよりしっかりとした物・・と言えばいいか・・・
しかし、いきなりお椀かよ・・・・
懐石でも二つ目に碗が出るけど、量が凄いぞ・・・コレ。
おまけに味が濃い・・・ときた。
これだけ味が濃いのにどうにか飲めるのは、かなり良い塩を使っているのだろう。
そう思えば、その塩が見てみたい。
で、「お造り」が出るタイミングで塩をもらった。
すると、2種類の塩を混ぜたような物が出てきたが、かなり良い塩だ。
お造りは醤油より塩が美味しそうな物だから、その塩で食べてみると・・・・
美味い!
なるほど、北海道直送は伊達じゃない。
しかし、カウンター内の板長は料理をしているように見えない。
イヤホンをして目も合わせない。
これじゃ、ネタの話も振れそうにないな・・・・
「焼き物」(時鮭、木の芽ミソの田楽)
時鮭と言えば、山田屋で食べさせてもらった物を思い出す。
それに比べてどうか・・・と言えば、遜色の無い物だが少し痩せている感じがする。
料理は奥の厨房から出て、板長は料理をせずにカウンター内のイスに座る。
どうなってんだ?この店??
「やる気ない顔だよな・・・」
「そうだな。 客が居るのに座っちゃうなんて・・・なぁ」
「あ・・・テレビ見てるんだ、アイツ」
「そうか・・・それでイヤホンか。
そう言や、その放送って何時よ?」
「だから土曜だよ。
それで急遽来たんじゃないか」
「それにしちゃ、空いてるよな。
普通、放送後にはこんな困った客が増えるんじゃないのか?」
「そうだな・・放送後最初の営業日にしちゃ、客が居ないな。
ま、これだけ高けりゃ、腰が退けるのも解るがな」
「あのふてくされ顔見せたくないから、女将が個室に入れたがったのかな」
「有りそうだな・・・それ」
6000円の和食コースと言えば、懐石の出し方が基本となるはず。
八寸は抜いて焼き物に来るのは解るが、どうもせっかちな出し方だ。
お造りの醤油とお椀を同時に出されたりすると、招かれざる客と思えてくる。
「蒸し物」(海老と帆立のしんじょ)
「サラダ」
「フキの茶漬け」
「デザート」(イチゴ、キンカン、ケーキ)
茶漬けを出す時、初めて板長が口を開いた。
それも「この後、食事になりますが・・・・」と簡単な一言だけ。
そして出てきた茶漬けは、やっぱり塩がきつかった。
あの塩じゃなければ、食えた物じゃない。
「魚は良いんだけど、店の空気が変だな・・・この店」
「居心地は良くないな。 きっと個室に入って料理だけ食ってれば
ここまで嫌な物を見なかったんだろうけど・・・」
「まだ飲むか?」
「日本酒はもういいな。
このそばに良いバーがあるんだ」
「ボーノ?」
「魚の後にはアイラでしょ」
勘定をしにレジへ行く。
相変わらず若い店員達はバタバタしていて、こっちを無視している。
「すいませんが・・・」
「・・お勘定・・・?」
「はい、お願いします。」
「ちょっと、お待ち下さい」
どうしてこの店の店員は単語だけしか言わないんだろう・・・
どういう教育をしているんだろう・・・・
最初からムカついた理由は、その言葉遣いの酷さと
常連客の横に座って話をしてしまうような接客態度の酷さにあるようだ。
そして5分が過ぎたが、誰も勘定をしに来ようとしない・・・
このまま帰っちゃうぞ・・・・と言いかけた時、女将がバタバタと走ってきた。
「お勘定ですね?」
「はい、お願いします。」
「明細はいりません・・よね?」
解った。
この店の元凶はこの女将だ。
金については誰にも触らせないスタイルで、レジを誰にも任せないのだろう。
その結果、客を10分近く待たせる事になっても、当たり前だと思ってるのかも知れない。
何故なら、この女将、一言も待たせた事に対して謝らなかった。
きっと誰もこの女将には逆らえないのだろう。
板長のふてくされ顔とやる気の無さで想像がつく。
いい材料も、いい環境で食べないと美味しくない事が再確認できた夜、
あらためて山田屋の偉大さを思い知る。
悪いけど、この店と付き合っていく勇気は持てそうにない。
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