深夜11時半。
気温3度。
帰宅するために、バイクに火を入れた。
アイドリングはなかなか安定せず、
早く走り出したい気持を諫めるようにグズついている。
無理矢理停めた場所はコンクリートの壁に囲まれているから、
給排気音がけたたましく反射し、人通りの少ない街に響き渡る。
うるささは安全の為・・・と少しだけ認めているが、
本当は、その音に包まれる事が大切だというワガママな感情が勝っているだけ。
だから、太い道に出るまでは大人しく静かに走る事を心掛けるが、
厳密に言えば許されざる行為の一つなのかも知れない・・・と理解している。
しかし、自分のバイクの音が小さく感じられた事は無い・・とは言えない。
例えばそれは、先月の土曜日に保土ヶ谷のパーキングで感じられた事。
リッタークラスにストレートの排気管を付けた軍団の中に居たら、
自分のエンジン音を確認する事も難しかったのだ。
所詮はハーフリッター車。
うるさい・・と言っても限度はあるって事だが、だからといって許される事ではない。
だから、無闇なレーシングは行わず、
じっと暖まるのを待っていた。
本町通りに出て、その力を解き放つと冷気が身を切るように突き刺さる。
だが、この感触こそがまた、不抜けた自分に気合いを入れる物。
だから十二分に味わって、ほんの数分間の帰宅走行を楽しむのだ。
・・・と、斜め後ろから、一台のバイクが追ってくる。
私のバイクよりうるさいから、リッター車だという事は想像がついた。
見覚えのあるライト。
角形の・・・・刀みたいだ。
設計の古い刀なら良い勝負になる・・・が、
真っ向から仕掛けて命のやり取りをするのはバカらしい。
マイペースで(と言っても夜中だから全開になるが)走って、
ついてきたら話でもしよう(^_^)
シグナルブルーで普通に繋ぎ、しっかりと11000回転まで回しきってシフトする。
オイル交換をしていないのでレッドゾーン寸前まで回せないが、
小排気量車特有のクロスレシオミッションが十分な加速を約束するのだ。
フルスケール260km/hのスピードメーターで針が天辺を指す頃、ミラーで確かめると・・・・
居た
少し離れて、しかしちゃんととんでもないスピードで追ってくる。
オイオイ
元気が良いねぇ・・・(^_^;)
みなとみらいに入ったら、ヤツを無視してフル加速。
そうしないと先の信号で尽く捕まってしまうから、他人の事なんか気にしていられない。
もしついてきたら、声でもかけてみるか・・・・
速く走るライダーは嫌いじゃない。
無事、オートバックス手前の交差点を通過すると、その先は赤。
このタイムスケジュールは頭に入っているから減速してミラーを見ると・・・
・・・・あはは、ついてきてるよ(笑)
ドッドッドッドッ・・・と、腹に響く排気音を撒き散らして奴はバイクを並べてきた。
やっぱり刀か・・・・
おや?
何処かで見た事のあるハンドルカバーを付けている・・・・
あれ?
刀にハンドルカバー??
ちゃんと顔を向けると、ヘルメットの奥の目が笑ってる。
「いつもこんな時間ですか?」
「今日はちょっと早い方」
「お疲れ様です。
でも、早いっすね〜コレ。
あれでどこまで回してます?」
「11000」
「500でしたっけ?」
「そう。
クロスミッションだから、町中は速いよ〜
でも高速は延びない。
良くて210位までかな」
「十分ですよ。」
「町中乗るには、軽くてバランス良くて気に入ってるよ」
そう、彼はクラブハウス担当のライダーだった。
だからこんなスピードでも、平気でついてきたって事・・・か。
町中で100マイル出しても、平気な顔してついて来る奴。
いくら追いかけても、追い抜けない奴。
そんなライダーを信号で捕まえると、何故か身内って事が多すぎる。
やっぱりバカの集まり・・・・か(爆)
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