カウンターを失った「山田屋」がどうなったのか・・・・
それが、その事実を知ってから、頭から離れない疑問だった。
アコーグループとの提携により、「ザ・ホテル・ヨコハマ」は大きく変化するらしい。
その変化に伴って改装する・・・という事なら、改装後にカウンターの復活は有り得るだろう。
しかし、それ以外の理由による改装だって有り得る話だ。
しれを確認するためには、一度行ってみる必要がある。
そう思ったらいつの間にか、山田屋のマネージャーに電話をかけていた。
今日の夜行くので、板長に「お任せで握ってくれ」と伝えて欲しい・・・と。
いつもと変わらぬスタッフが出迎えてくれるが、板長に会う事は無い。
その寂しさを紛らわすのは、初めて入るテーブル席用食堂の設えと空気なのだが、
広さとテーブルの多さが、落ち着ける雰囲気を阻害していた。
まぁ、同じ味が楽しめれば良いか・・・・
そう自分自身に言い聞かせながら席につくが、
テーブルと料理を予約している客にメニューを持ってきた。
この店で私が食べる物も飲む物も、殆ど決まっているんだぜ?
と意地悪心がムクムクと湧いてきたが、食べる前からケンカ売ってもしかたない(^_^;)
いつも通り「加茂鶴」をオーダーして、寿司を待つ事暫し・・・
烏賊
鮪
小鰭
車海老
煮穴子
千枚漬けの巻物
鰺
白魚
玉子
と皿に一緒に盛られた握りが出てきた。(勿論、塩+臭橙付き)
待ってたよ〜と手を出したら・・・
味はやっぱりいつも通りの板長の味。
しかし、何かが違う。
廻りのうるささか空間の広さか・・・・
ソレくらいは理解しながら来たのだが、どうも味が今ひとつ感じられてならない。
酔っぱらっちまえばうるささなんて気にならなくなるから・・と杯を重ねていると、
筍を丸のまま炙って、中身だけ食べやすく切れ目をいれた季節感を感じさせる料理が出てきた。
芯の部分だけを食べる贅沢な料理だが、ほこほこと暖かく木の芽を使ったソースも素晴らしく、
「山田屋」らしさを感じられて、少しだけ嬉しくなった。
だが、やっぱり一味足りない・・・
平貝
蝦蛄
雲丹
ネギトロ巻き
と少し小振りの皿に載った握りが出てきて、コースは終了となった。
いつもなら板長が追加が必要か尋ねる量。
なるほどなぁ・・・と思いつつも、今日はちっとも白身魚を食べていない事に気がついて、
適当に・・・と追加オーダーをしてみた。
縁側
鯛(松皮造り)
カンパチ
アレ・・・?
今日、河豚は無い・・・の???
いつもだったらカウンターの客用に、
外側だけ炙ったトラフグや赤目フグが有るはずなのに・・・
カウンターを閉めた結果、
その手のネタの仕込みも無くなったって事だろうか?
だとしたら、特別なネタを使う握りは今後食べられない可能性が高い・・・かも。
今日は、テーブル席で食べる寿司がどんな味か?
そしてその値段はどうなるのか?
という命題の答えを求めてやってきたのだ。
その結果、客を連れてくる価値があるかどうか・・・も。
加茂鶴2本を加えて8450円という請求になって、恐ろしく高いと感じる。
いつもとそんなに変わらない請求額だが、どうしても高い・・と感じてしまう。
それは、食べる環境の違いだけじゃないように思のだが・・・
帰り際に板長に挨拶をしようと呼んでもらって彼と挨拶を交わした時、
その声を聴いて何となく何かが違うと感じていた事が解った。
彼の声は、山田屋の味の一つ。
彼の喋りは大切な調味料で、冷蔵ケースで魚を見ながら食べる事も重要で、
その会話の中から、彼が思いつく変わり寿司は全て絶品で、
カウンターにしか来ない客用に仕込むネタは粒ぞろいだったのだ。
今日はそのドレもが存在しない寿司だったから、何か一味足りないとかんじたのだろう。
寿司はカウンターで食べなくてはいけない・・・と、つくづく思い知らされる。
海苔が湿るような時間差があったら、握りはそれだけで味が落ちる物。
少しでも美味しく食べようとするからカウンターで食べる事を選ぶし、
ある程度コストを使う客には料理人もネタの使い方を変える物だ。
だからカウンターに拘ってきたのだし、コストが高いのは当たり前だと納得できていたのだ。
今までの「山田屋」は、5人しか座れない部屋で板長と会話しながらの寿司だった。
今日は20人入れる食堂での皿に盛られた寿司だった。
そのコストが同じだったら・・・・・
マネージャーが改装のためとカウンターを閉鎖したのは、
徹底したコスト管理の中、5人しか座れないような寿司カウンターを残すのが難しいのか、
カウンタースペースを潰してテーブル席を広げるためかは、わからない。
もしかしたら、アコーグループによるテナント対応の変化もあって、
このホテルの地下で営業する価値自体が薄れてきたのかもしれない。
いずれにしろ不景気は、
ちょっとだけ贅沢ができる場所を、こうやって壊していくらしい。
残念ながら「山田屋」を「当分行かない店リスト」に入れざるを得なくなって、
「不景気のバカヤロー!」夜道で叫んでしまった。
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