午後3時、いつもの店で蕎麦を食べていると、
ちょっとくたびれた感じのカップルが入って来た。
男性はスキーウェアのような上着を着、髪に力が無い感じだが顔つきから30代後半に見えるが、
女性はストライプの入った明るい色の上着にミニスカートを合わせた感じから30代前半に見えた。
こんな中途半端な時間に、着る物のバランスの悪いカップルだな・・・・と思ったが、
こっちもビールで気持ちよくなっているし、熱汁の鴨せいろを食べるのに夢中で
(熱い汁に冷たい蕎麦は浸ける時間と量が難しい)観察する気にもならなかった。
彼等は私のすぐ隣の席に座ったが、その様子が少しオカシイ・・
・・・と感じたのは、女性の話し声を聞いた時だった。
「・・$%’&”?*!! ・・・ジャネェダロヨォ!」
「そんなにぎゃぁぎゃぁ言うのなよ!」
「〜@’#ッテンジャネェ$$&−”ッダカボケェ!」
え?
彼女、外国人??
ちょっと見、そうは見えなかったんだけどな。
しかし、うるさいカップルだな・・・・
「君は蕎麦の人だよね?」
「饂飩でいいって。饂飩デ!」
「いつも蕎麦じゃないと怒るだろ?」
「良イッテ、言ってンジャネェカぁよぉ!」
「じゃ、饂飩頼むよ・・・すいません!」
午後のマッタリとした時間は、突然の大声で台無しだ。
あ〜ぁ・・・と溜息をつきつつ早めに切り上げるように考えるが
一瞬にして蕎麦屋を居酒屋ノリに変えた彼女が、どんな感じか見たくなる悪い癖が出始めた(^_^;))
が、席の並びが真横な為に男性しか見る事ができなくて、欲求不満が募ってくる。
と、突然彼女の携帯が鳴る。
当然彼女は、回りなど一切気にせず携帯に出た。
「イェ〜イ! 元気ぃ〜?
何してる〜?
コレから〜? それも良いけど飲みに行こうよ〜
う〜ん、ジジイ?
ジジイ元気じゃないから・・・
飲みに行く?」
「元気ねぇよ、何時だと思ってるんだ? いい加減にしろよ」
「だめだ〜 ジジィ怒ってるぅ〜」
「お前うるさいよ、そんなデカイ声出すなら、外で電話しろよ!」
「わかったよ、うるせぇな!
外行きゃいいんだろ」
あれ?
彼女、マトモな日本語喋ってるぞ???
携帯を持ったまま外へ出ていく彼女の姿を見ると、
小柄な身体に合わせたマトモなスーツを着ている事が解った。
言葉遣いと態度の悪さはその後ろ姿からは想像つかない。
残された男性は大きな溜息を一つ、ついた。
若い姉ちゃんとくたびれたオヤジか・・・
ちょっと世間ずれした辺りが、このカップルを成立させているのだろうか?
それにしても彼女のノリは、少しばかりおかしく思える。
ま、こっちにすればくつろぎの時間が失せたワケだから、
長居をする必要も意味も無い。
残ったビールをグッと空け、蕎麦湯で延ばした鴨汁を少し舐めてから、
勘定を払って外へ出た。
驚いた・・・
彼女、れっきとした日本人だ。
それも、相当な歳だ。
いや、そう見えるだけなのかも知れないが、
どうみてもただのオバサンが無理矢理顔に合わない化粧をしているようだ。
「だからさぁ〜 カラオケより飲みに行こうよ〜
つまんなくてさぁ〜 やってらんないんだよ〜
ジジィなんてどうでもいいんだよぉ〜」
まだ、携帯で怒鳴ってる。
昼過ぎの明るさが眩しいのか目を細めながら、体中で不満を表現している彼女。
その姿とさっきの男性を重ねて見ると、職を失った旦那を支える妻にも見えるし、
飲み屋で働く女性と朝まで飲んでた常連客とのカップルとしても見える。
不景気な休日、必至に時代を生き抜く人間の苦しみと力を見せられて、
まだまだ幸せな生き方ができている・・・と思えた。
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