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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

しまいにゃ怒るゾ3

「先輩、今度の祝日、お暇ですか?」

「たぶん・・・
 仕事が前日でケリつけば、空くと思うけど?」

「いつも相談にのってもらってばかりなので、そのお礼にご馳走したいと思いまして。」

「おぉ、律儀だな。
 で、何を食いに行くんだ?」

「三崎でマグロを食べましょう」

「三崎かぁ・・・最近行ってないな・・・。
 マグロかぁ・・・、いいな、ソレ。
 よし、じゃぁオレが車出すよ」

「京急横浜駅のホームの一番前で、12時1分発の快速特急に乗ってください。」

「はぁ?」


祝日の横浜駅は少し閑散として見えた。
いや、自分の立っている場所が、滅多に電車が止まらない場所だからそう見えるのだ。

12時1分発「快速特急 三崎口・新逗子 行き」12両編成

それがヤツの指定した電車だが12両編成は少ないらしく、当然私が待つ場所で他に待つ人はいないのだ。


「彼処ら辺って車ないと不便だぜ?」

「車だと酒飲めないでしょ?
 先輩、よくそう言うじゃないですか。」

「確かにそうだけど・・・不便だと思うがなぁ・・・」

「いいから12時1分発に乗ってください。」

「え? 俺一人でその電車に乗るのか?」

「そうです。乗れば解ります。
 ホームの一番前に12両編成専用の停車位置がありますから、
 そこで先頭車両の一番前に乗ってください」


ヤツだって横浜なのにどうして俺一人で電車を待つんだ?
と疑問を持ちつつ電車を待っていると、指定された電車がホームに入ってきた。

アッ・・・コレだ

今まで通過した電車とは明らかに違う外観。
正面には大きな字で「2100」と書いてある。

あいつはこの電車に乗りたくて時間を指定したんだな・・・


「おはようございます。 どうぞココへ。」

「あぁ。
 もしかしてお前、品川から乗ってきた?」

「はい、モチロン。
 この2100系は一番前の席が運転席の真後ろに、進行方向に向かって付いているので、
 絶対一番前に座りたかったんですよ。 まるで運転席みたいでしょ?」

「はぁ・・・・
 確かに、こんな風にイスが付いてる列車は初めてだけど、
 お前にしたら左側の運転席真後ろの方がいいんじゃないか?」

「イスが低いんで、アッチだと前が見えないじゃないですか。
 京急は飛ばすから軌道が見えるコッチの方が面白いんです。」


そうですかそうですか・・・

君は電車に乗りたい人間だったよ、確かに。
そこで楽しく運転手気分を味わっておくれ。


子供の頃、最低運賃の切符を買って京急に乗り、
降りなきゃバレない・・という悪知恵を働かし「三浦海岸」まで往復してきた事があった。

景色はどんどん田舎びて、もの凄い旅行をした気分になれたが、
その所用時間の長さに呆れ果て、最後は罪悪感と寂しさで泣きそうになった私は、
その後東海道線のトイレに隠れて大船まで行くような遊びを一切止めようと心に誓ったのだ。


「横浜から先は、ちゃんとコーナーで減速し直線で加速するような運転が味わえます。」

「へぇ・・・」

「この2100系はシーメンス社のパワーユニットで、加速する時音階を奏でるのが特徴的で・・・」


はいはい、そうですか・・・
しかし楽しそうだね、君は。


確かに最前列の席から見える景色は、ちょっとしたテレビゲームより迫力がある。
ヤツが言うように、コーナーで減速し直線でしっかり加速する2100系は、
なかなかメリハリの聞いた挙動を見せて楽しくなってくる。

マズイ・・・
俺もヤツに毒されてきたか・・・


「この時代に単線ですよ、先輩。
 ギリギリのサイズでしか作られてないトンネルをガンガン行くのは楽しいっすねぇ」

「確かに珍しいよな、単線は」

「今、この単線区間はずいぶん短くなったんですけど、
 ちゃんと向こうから電車が来てから発車するのは、単線ならではの楽しみですよね〜」

「そんな事が楽しいのかい?」


女よりも?と尋ねそうになって慌てて黙る。

こんな風にデートに誘われたら、女としてはどうだろうな・・・・?
(愚問か・・)


横浜から50分もしないで三崎口についてしまい、昔感じた所用時間の長さが嘘のように思えた。
こんなに早く来れるなら、ちょっと三崎でマグロを食べに・・という事も可能じゃないか。
(横浜〜三崎口:550円)

駅から出ると目の前はバスターミナル。
そして三崎港行き路線バスは、電車のダイヤに合わせてすぐやって来た。

まるで、送迎車が待機してくれていたようで、
そのアクセスの良さに驚かされる。
(三崎口〜三崎港:260円)


「先輩、美味しい店、教えてください」

「オイオイ、お前がご馳走するって言うから、俺何も調べて来なかったぜ?」

「よく仕事で来てたんでしょ?
 私より絶対詳しいでしょ?」

「そりゃそうだが、『天咲』はオヤジが死んじまって既に無いし・・・・・
 そうか、彼処に行ってみるか」


「紀の代」(きのだい)
 0468-81-3167
 三浦市三崎1-9-12
 11:00〜21:00(平日昼休 15:00〜17:00)
 火曜定休

この店は、局のカメラマン達と取材で来た時に必ず寄っていた店で、
小丼を合わせる定食が楽しかった事を覚えていた。

だからヤツを連れて記憶の辿りつつ店を探したのだが、コッチの感覚は車的で距離感が合わない。
結局、随分と遠回りをしながらも発見したら、さすがは休日、店はほぼ満席の状態だった。


よく食べていた小丼のセットは中丼2個で1000円といった形に変化していたが健在で、
まぐろ・びんとろ・かき揚げ等、かなりの種類がメニューに載っていた。


「先輩、寿司、いきません?」

「そうだな・・・と、ここはどっちかと言えば寿司屋・・なんだな・・」

「昔はこうじゃなかったんですか?」

「そうだねぇ・・・どっちかと言えば、食堂っぽかったような・・・」


びんとろ寿司(備長鮪(ツナ缶に使われる鮪)のトロを使った寿司8カン:1900円)
おまかせ寿司(地の魚をメインに握ったもの:2500円)
三崎ロマン(地ビール:480円)
越の景虎(600円)


「美味いっすね、コレ」

「びんちょうって安くて美味しいのに、あまり流通してないんだよ。
 だから三崎に来たら必ずコレを食うんだが、やっぱ美味しいなぁ」

「先輩、もうちょっと握り食いません?」

「豪勢だね」


<今日のおすすめ>
ボタン海老(800円:2カン)
さば(400円:2カン)
中トロ(1000円:2カン)
地蛸(500円:2カン)


漁港の傍だから・・・という事もあるだろうが、今まで本州で食べた「ボタン海老」の中で
一番をつけても良いくらいの美味しさと大きさがある「ボタン海老」
「金目鯛」「ぶり」等も美味しく、これには来た甲斐があったと大満足できた。


「今度さぁ、このコースで彼女誘ってみたら?」

「うまくいきますかね?」

「お前がセッカクの二人掛けシートに座りながら、
 彼女そっちのけで運転手モードにならなければね」

「はぁ・・・ 努力します。
 でも、京急ってアクセス良いでしょ?
 全部調べておいたんですよ」

「そういう事だけはマメなのになぁ・・・・」

「それよりもうちょっとしたらバスに乗りましょう」

「?」

「また帰りに2100系に乗りたいんですよ。
 今度は途中で連結があるんで、途中までの楽しみになっちゃいますけど・・・」


彼は生粋の鉄道マニア。
ダイヤを調べる事はできても、送る事なんて想像もできない。

自ら新しいルートを考える事なんて不可能だから、
人生のダイヤを書いて貰える人間に出会うしかないのだろう。

 
 
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