「何つついてるの?」
「へ?
何もしてないよ??」
「え・・そ〜お?」
彼女は怪訝そうな顔をしながら席についた。
「忙しそうだね?」
「この時期は仕方ないっしょ。
年度末までにやっつけないと大変だからね。
そっちだって、いよいよシメの時期だから大変でしょ?」
「あぁ、収入が減ってるから帳尻が合わなくてね。
このままじゃ、会社畳むって感じだよ。」
「そんな事言いながら、どうにか切り抜けていくんでしょ?」
「すり抜けは上手いんだけどね」
「しかし不景気ですよね〜
ウチなんか思いっ切り煽り食っちゃて」
マスターがビールのグラスを出しながら話かける。
「だよね・・・
金曜の夜だってのに、客がいない・・・」
「何か不思議なんですよ。
今日の外は凍ってないので、お客さん来るって思うんですけど・・・」
「いつもこのお店は混んでるの?」
彼女は、静かな店で話をする私を知っているから、
静かな店を選んだものと考えたらしい。
「あはは。
いつもはもうちょっと賑やかだよ」
「もうちょっとは言い過ぎでしょ?」
「悪い悪い・・・
それより空きっ腹のお嬢さんにいつものピザを焼いてくれない?」
「いつものピザって?」
「ツナ・オニオン・ガーリック・・・」
「ハラペーニョ・・・・(^_^)」
「ツナって少しでもヘルシーにって事?」
「いや、何故かこの組合せって餃子っぽい味がして好きなのさ」
「へぇ〜」
マスターの焼くピザは、生地から作った本格派。
横らしく角形に設えたソレを見て「ネライ?」と尋ねたら、
「丸じゃ単にオーブントースターに入らないから」と答えられて爆笑した事を思い出す。
「あのさ・・・変な事言っていい?」
「うん・・・何?」
「さっきさ、この店に入った時、変な物見たのよ。」
「変なもの?」
「長髪の男の人・・・・」
「え・・・顔見た?」
「ううん、影だけ」
「背の高さは?」
「あまり高くない・・・」
「じゃぁ、さっきのも・・・」
「あぁ・・・そうか。
気にしなくていいよ、悪いモンじゃないから」
「・・・そう?」
「あぁ」
少し空気が変わる感触があったから、誰かいるのかも知れない。
悪いモノなら強く感じるし、近いモノなら良く見えるが・・・・今は何も感じない。
「気のせい・・・よね?」
「そう、気のせいだよ」
「ところでさぁ・・・あっゴメン」
「何?」
「えっ 足踏んだ・・・よ?」
「踏んでないよ??」
「踏んだって・・・・・」
すっと頬を撫でる何か・・・・
瞬間、後頭部がくぅっと後ろに引っ張られる。
「え・・と、ラフロイグ10年と、アーリータイムズをロックで」
「はい・・・と・・・あっ 解りました。」
同時に二杯のオーダーにマスターは瞬間躊躇したが、その意味を理解して平静を保つ。
彼女は、何故そんなオーダーをするのか理解できないようだったが、
マスターが彼女と私の間にロックグラスを置くのを見て、何かを理解した。
「ねぇ、誰か居るの?」
「まぁね。 気にしなくていい。
この店、すぐお客さんでいっぱいになるよ」
「なんで?」
「ヤキモチ焼きが邪魔してたんだよ。
でも、納得したみたいだから・・・」
「ワケわかんない」
「いらっしゃい〜!」
常連の客が入ってくる。
深夜12時を回ってから来る常連は少ないのに、立て続けに4人が入ってきた。
「な?」
「ホント・・・うそみたい」
「帰るわ!」
「ありがとうございます。
今日はどうなるかと・・・」
「いつも通りじゃん」
「ちゃんと連れて帰ってくださいね」
「大丈夫だよ。
またね。」
「おやすみなさい」
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