「あの、相談があるんですけど・・・」
「またかい?
金も女も無いぞ」
「いつもそればっかりですね・・・」
「お前の相談ってろくな事じゃないからな。
で、何だよ? また女の問題か?」
「えぇ、この前話したじゃないですか。
あの娘の事なんですけど・・・」
「だから、お前にはメがないよ。
無理、不可能、諦めろ。」
「ホント・・身も蓋も無いですね。
実は、その諦めろって娘とまたデートしたんですよ」
「へぇ? どうして? どうやって?」
「彼女、癒し系に弱いんですよ。
だからそこら辺狙って誘ったらうまくいったんですが・・・」
「癒し系・・・、お前が??
どうみたってそういう系統じゃないだろう?」
「何言ってんですか。
実は彼女、動物が好きなんですよ。
疲れがたまると上野動物園に息抜きに出かけるんです。」
「で、動物園に誘った・・・・と?」
「えぇ・・
でも、なんかまた怒らせちゃったみたいで・・・」
ヤツの話じゃ、彼女は毛が生えている動物は何でも好きらしく、
猫や犬を見ると無条件に触りに行ってしまうらしい。
だからヤツも、動物園にさそえば彼女がのってくると踏んだのだが、
その目論見は一応成功を収め、無事再会は果たせたようだ。
「オカピは見た事がなかったハズなのでズーラシアへ誘ったら、
冷ややかな声で受け答えしてた彼女がいきなり明るくなってくれて・・・」
「不思議だよな・・・ もう誘うなって言われたのに、
そうやって電話は受けてくれるんだ」
「全然、脈無し・・だったら電話しませんよ。
俺、彼女好きなんですから・・・。」
「ズーラシアだったら、オカピの他にも貴重種はいるしな。
しかし、動物園行くんだったら、お前と一緒に行く必要はないよなぁ。
やっぱりどっか、捨てきれない物があるのかなぁ・・。
でもさ、それじゃ嫌われるわけ無いじゃん。 その後、市電博物館とか行かなかったか?」
「行きませんよ! この間言われた通り、今回はキッチリ彼女中心のスケジュールです。」
じゃ、なんで上手くいかないんだ・・・?
女は、嫌いになったら完全に無視する人の方が多いから、
例え目的があっても、嫌いな人間と一緒にいる事は考えないはず。
他の人と行かずにヤツと行くなら、それなりの脈はあるはずなのだが・・・
「午前中に横浜駅で待ち合わせをしてどっかで食事してからズーラシアって思ってたんですが、
彼女が『動物園ならお弁当作る』って言うんで直行したんですよ。」
「・・だよ、しっかり上手くいってるじゃんか」
「でしょ?
だからワケわからないんです。」
「また電車で行って、運転席の後ろで彼女無視して見つめてたりしなかったか?」
「電車だとそうしちゃいそうなんで、車で行きました」
「車? お前持ってたっけ?」
「買ったんですよ、ヴィッツ」
「デートに使うなら俺の車貸してやったのに。」
「嫌ですよ、あんな大きくてマニュアル車なんて」
「悪かったな。 ツアラーVのマニュアル車って珍しいんだぞ。」
「そうっすね、先輩くらいっすよ、乗ってるの。
4ドアのセダンで280馬力でマニュアル車って、よっぽどの馬鹿じゃなきゃ乗りませんよ。
これがスポーツカーだったらまた違うんですけどね・・・」
「解った、もういい。 俺は忙しい。」
「あっ スイマセン、そういう意味じゃなくて」
ヤツは横浜駅まで新車のヴィッツで彼女を迎えに行き、カーナビに助けられて無事ズーラシアについた。
彼女は車の中からウキウキし、園内では満面の笑みを浮かべていたという。
身の危険を感じるようなシチュエーションは起きるはずも無いから、
彼女も呑気に羽を伸ばせたのだろうか?
だとしたら、ヤツは便利な運転手扱いかもな・・・
「まさかさぁ、手も繋がないでほのぼのしてたんじゃないよな?」
「あはは、手は・・繋ぎましたけど、やばそうなホテル街なんかは避けて走りましたよ。」
「それか・・なぁ」
「え?」
「いや・・・ で、動物園の後はどうした?」
「急に雨降って来たんで、ちょっと早めに上がったんですが、
それはもうマジメに、ちゃんと横浜駅まで送りました。」
「それだけ?」
「? 勿論。 強引な事は一切してません」
「あのさ、彼女って何処の人?」
「青物横丁ですけど」
「横浜には何時に着いた?」
「夕方の4時前ですかね」
「君は、いったい、彼女と、どうなりたいんだ?」
「え・・・と、仲良く・・・」
ここまでいったら、おめでたい。
好き合う同士だったら、ギリギリまで一緒に居たくて当たり前。
相手が退いているのに誘い出すほど好きだったら、一刻でも長く一緒にいる事を望むもの。
なのにヤツは、あっさりと彼女を駅に送り届けただけ。
それも雨が降っていて時間もタップリあるはずなのに・・・・
「どうして、青物横丁まで送らなかった?」
「だって、横浜駅で待ち合わせしたんですから・・・」
「あのさ、お前は彼女と一緒に居たいんじゃないの?」
「えぇ・・・」
「じゃ、雨降って汚れそうな日、まだ晩飯を食う時間にもなってないのに、
どうして車で送っていくつもりにならないんだ?」
「・・・え・・と、彼女、嫌がるかな・・と」
「一緒に居るのが嫌なヤツだったら、車みたいな密室に二人きりで入らないよ。
『もう誘うな』とまで言った彼女が、車だと知っててやってきただけで成功したようなもんだよ。
動物好きって事は単なる言い訳、彼女もどっかでお前が好きだからその言い訳にのっただけさ。」
「そうなんですか?」
「当たり前だろ?
車に乗せるなんて上手い手を使ったな・・と感心した俺が馬鹿だったよ。
邪魔が入らずに話ができて、どこへでも行けて、親密感も増すのにさ・・・」
「はぁ」
「壁を乗り越えるには、勇気だとか言い訳できる理由だとかがあって、
その上キッカケが必要なんだ。 仕方ない・・と思える突発事故とかのな。」
「壁って?」
「有るだろ? 彼女とお前の間には!
それでもつきあってくれる彼女は、自らその壁をよじ登ってくれたんだぜ?
なのにお前はよじ登った彼女を降ろしてやるどころか、置き去りにしたんだよ。」
「そんな事無いですよ。 安全運転でしっかり駅までアテンドしたんです。」
「あのさ・・・
雨が急に降ってきても、その後のスケジュールがあったら関係ないじゃないか。
雨が降ったから帰るってだけでも彼女はつまらないし、時間があるのに、車なのに、
お前は送ってもくれないんだぜ?
彼女は早く起きて弁当まで作ってくれたのに、お前はイベント終了・・とばかりに
スタート地点に戻ってゲームオーバーにしてしまう。
家まで送ってくれても充分時間があったら、部屋にでお話でもってなるかも知れないだろ?
そこまでいかなくても、車をどこかに置いて夕御飯一緒にできるかもしれないじゃないか?
なのにお前は・・・・」
彼は、生粋の鉄道マニア。
駅名プレートを盗む事はできても、女の心を盗む事はできない。
そんな生き方しかできなくても、チャンスを作ってくれる彼女に会ってみたい。
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