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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

心が通う

誰かのために明るく笑い、
その人のためにあらゆる気を遣い、
踏み込み過ぎないように、でもすれ違わないように・・・距離も気にして

そうやって気合いを入れて人に会っても、
その気持ちに気づいてももらえない・・・と、彼女は言った。


気を遣いすぎて疲れる。
気がついてもらえないで傷つく。

普通は相手が気がつかない場所で、見えない事を知っていて綺麗に合わせる事は、
何の見返りも計算も無いからできる事であり、
しかし、そこに相手が気づくか・・・と試す行為でもあったりする。

いつもそんな風にしてたら大変だが、
自分もそんな傾向があるので、気持はよく解った。

何かを誰かにしてあげるのなら、相手が気がつかないように何かをしてあげる事が良い・・・
と、私自身も考え、程度問題ではあるけど実践していたからだ。


「仕事で出会った人に、ちょっと不思議な色のスウォッチをもらった事があるんだ。」

「へぇ・・・」

「私がブルーが好きな事知って、『良い色があったんで』と持ってきてくれた」

「特別な関係じゃないのに?」

「そう。 でも、確かに綺麗な色だった。」

「高すぎず、野暮ったくもないってとこ・・か。
 で、気に入ってずっとしてるの?」

「大事にしまったよ。
 傷つけたくなかったし、デザインがちょっと派手だったから、
 合わせる服も難しくて・・・・」

「あれ? 気に入らなかったんだ、それ?」

「好きな色。 気に入ってる。
 でも、なんか嬉しくて、大事にしまっておきたかった」

「ふ〜ん。
 そこまで嬉しそうな顔して聞かされると、見たくなるね」

「時計? その人?」

「あはは。 どっちも」

「でね
 この前久々に再会する事になって・・・」

「つい気持が燃え上がって?」

「あはは
 淡い期待みたいな物はあったかも知れないけど、
 そんな感じじゃないよ」

「で?」

「うん
 大事にしまっておいたその時計を出して、
 止まっていたから電池まで替えて、していったの。」

「じゃ、彼は喜んだでしょ?」

「それだけじゃないよ。
 彼の着ている物って特徴があるから、一緒に居る時に浮かないよう
 こっちもそれに合う服装とメイクをしていったの」

「何だか妬けるね」

「でしょ
 でも・・・・彼、こう言ったの。
 『良い時計してるね』って・・・・」

「俺がプレゼントしたヤツだからってわざとそう言ったんじゃない?」

「・・・そうじゃないの。
 『へぇ〜、スウォッチでこんなヤツ出してるんだ。
  何処で買ったの? 今のモデルにある?』って真顔できいたの・・・」


寂しそうな影を頬に浮かべて微笑む彼女を見て、
彼との接点が過去に置き去られて悲しんだ姿が想像できた。


私は、誰かに何かをしよう・・とする時いつも、
本当はこうしてもらいたい・・・というその人の想いを、想像する。

そしてそう願う事がかなうように・・・と動いてきた。

しかしそれは、表面的には冷たい仕打ちに見えたり、
私を鈍感で気の利かない人間に見せるようで、感謝されるなんて事は殆ど無かった。

勿論、それは承知の上。

結果的に自分が間違っていなければ良い・・・と言うか、
自分の考えを信じているから、そう行動する事しかできないのだ。


「損な性分だね・・・。 気を遣いすぎだよ。」

「そう思う。
 でも、無神経ではいられない」

「ふ〜ん・・・
 じゃ、俺にも目一杯気を遣っているんだ?」

「全然」


知ってる。

彼女が、すごく合わせてくれている事を。
そしてそれでも、彼女が無理はしていない事も。


時計の事はともかくとしても、随分前に会った人の服装の趣味を覚えていて、
ほんの短い時間一緒に居る時のために気を使える人なんて、そう居ない。

なのに彼女は、気持のやりとりができる人とは出会えないらしい。


「心が通う」という事は、そんなにも難しいのだろうか。

 
 
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