「ちょっとこれ食べてみて」
と出されたのは、表面だけを焼き締めたフグの握りだった。
この店ではいつも、ネタの細かい説明が無い。
美味しい鯖だと思って尋ねれば「関鯖」だったりするのだが、
こっちが尋ねない限りは黙ってシレッと出してしまう。
山田屋は和食が本業で、今はフグ料理がメインだから、ネタの種類は限られて当然だ。
お造り用だったり刺身盛り合わせ用だったりするネタから、
寿司に合う物を揃えているから特別な物はあまりない。
しかしその分、種類を限定して美味しいモノを揃えているから、
鯖が関だろうが松輪だろうが鯖という名でしか出さないのだ。
それでは・・・と頂いてみると、トラフグに比べて歯応えが違う。
少し柔らかく、噛む事で旨味が溢れてくる。
「美味しいでしょ? これは『あかめ』。
ヒガンフグの俗称だけど、これが物によっちゃトラより美味しかったりするんだな」
「へぇ・・・初めて食べた。
少し柔らかい感じもするけど、後から旨味が出てくるようだね」
「珍しい物出したから、今日はそんな感じで行こうかな」
と言いつつ出したのは、ミル貝の炙りを韓国海苔で巻いた物だった。
「炙った香ばしさがあれば、韓国海苔で巻いても美味しいだろう・・・と思ってね」
「わさびが意外に合うんだね」
「韓国海苔をもみ海苔のようにしてご飯の上にどっさりのせて、
わさびをちょんと乗せてお湯かお茶をだ〜っとかけると、
これが抜群に美味しい茶漬けになるんだな」
その味を想像した瞬間、チキンラーメンの上にのせたらどうだろう・・と考えるバカ<自分
類は友を呼ぶ・・・とはよく言うけど、どうも板長とは色々な趣味が合う。
車の事、食べ物の事、カウンターを挟んだ距離感の楽しみ方・・・
それが、必要以上に上品にならず、かといって下品にもならない事が、楽しみに繋がっている。
そしてどこかで、同じ様な見方、感じ方、考え方がある・・と思えるから、
ついついこのカウンターに座ってしまうのだろう。
歳を重ねる事で見える事は多く、備わる落ち着きは経験の重みを物語る。
その結果がバランスの良さ・・・だという事も解っていて、
さらに尖っていきたいと思える強さが、格好良い。
前へ足を出さなければ衰えると解っていても、足を動かす力が弱るのも歳。
だから、意識して前へ出たいものだ。
しかし板長、寿司として韓国海苔を使ったモノは、初めて食べたよ(^_^;)
|