「おう、美味いなぁコレ。
なんか、いつも飲んでるのと違うな」
「ジンにちょっと良いのを使いました。」
「そっかぁ、兄チャン気がきくなぁ・・・気に入ったゾ!」
「ありがとうございます」
「俺さ、この先で事務所持ってんだよぉ。
いっつも関内とかで飲んでてさぁ、
こんな近くにこんな良い店あるって知らなかったよぉ」
こういう客ってよくいるよな・・・・と、少し観察してみる。
高い襟のワイシャツに、ラペルの大きい紫がかったスーツ。
頭は伸び気味のちりちりパーマ系で、若そうな顔つきをしている。
「ここ、長いの?」
「6年位ですかね」
「そうかぁ・・・、気がつかなかったなぁ。
俺、ずっとすぐそこに住んでんだよ。
中学、栗中な・・・・」
「栗田谷ですか?」
「そうよ、坂の下だよ。
兄チャンは? 栗中? 松中?」
「私はコッチの出じゃないんで」
こんな時、マスターは素っ気ない。
優しい顔を見せず、怒りもせず、すっと水を足したりするだけだ。
こういったバーで、この手の客を見る事は珍しい。
関内辺りのクラブもどきバーに生息しているタイプで、
ちょっとヤクザっぽい感じがカッコイイと思っている・・・・・
が、彼等は真面目な労働者である事が多く、
ただただ酒の席で自分なりの格好良さを演出しているだけなのだ。
(もっとも、高級なクラブでそんな真似をすれば、本物が出てきて面倒な事になるが)
「俺、マスター気に入ったよ。
今度、飲みに行こう。
俺の知ってる店連れてくよ」
「ありがとうございます」
「携帯、教えてくれよ、携帯」
「実は私、携帯持ってないんで」
「んな事あるかよぉ、今時。」
「本当に持ってないんです」
「ねぇ、そこの兄ちゃん、マスター本当に携帯持ってないのか?」
オイオイ、コッチにまでからんできたぞ(^_^;)
「持ってないようですよ」
「本当かよ・・・・
ま、いいか。 マスター、こうやって見ると若いね・・・
何年生まれよ?」
「私ですか? 42年生まれです」
途端に彼は立ち上がった。
「失礼しました、先輩でしたか」
「えぇ、まぁ・・」
「自分は45年生まれの駆けだしです」
「お若いのに、事務所持ってるなんてスゴイですね」
「押忍! それほどでもないっスよ」
どうやら彼は、体育会系らしい。
|