「52番の方、中にどうぞ〜」
待合室に声をかける。
振り袖を着た女の子が、
待ちくたびれた顔をしながら入ってきた。
「ちょっと直しますね。
疲れちゃいました?」
「もう2時間待ちぃ〜 苦しいぃ〜」
「成人式は出られました?」
「出た出た」
「友達来てました?」
「うん、一緒に行ったの〜。
お兄さんは成人式いつ?」
私も、その日の成人式への招待状は持っていた。
しかし引越が趣味のような親のおかげで、地元の友達なんてモノは存在しない。
まして、着飾って出るための服も持ってないし、バカ騒ぎする気分でもない。
だから、修行している写真館で、成人式の撮影助手を務めていた。
普段はブライダル&証明写真で穏やかなスタジオだが、「七五三」と「成人式」だけは戦場となる。
予約&飛び込みで整理券を発行し、病院のように流れ作業で撮影するのだ。
被写体を誘導し、着付けの乱れを直す人、二人。
被写体に合わせて照明の微調整をする人、一人
フィルムの入れ替えと撮影済みフィルムの管理をする人、二人。
そしてカメラマン、二人。
これに会計等の事務職を入れると総勢9名となる。
この一大イベントには、滅多に食事を出さないスタジオでも寿司桶の大を3つ程取ってくれるが、
ちょっと手を出そうにも一番偉いカメラマンが食べない限り下の者は触れる事も許されず、
結局撮影終了まで飲まず食わずの仕事になるのだ。
自分と同じ歳の娘達の足元に座り、乱れた裾を直す。
その綺麗な着物と大人びた化粧はまったく別世界の人間のように彼女らを演出し、
床にひざまづいている自分が我ながら惨めに思えた。
「お前さ、ちょっと抜けていいから式行ってこいよ。」
「えっ、いいですよ〜。
こんな作業着じゃみっともないですよ〜。
友達居るわけじゃないし、招待状だって持ってないし・・・」
「そうか・・・・」
「ありがとうございます。
でも、成人を祝う式に出るよりも、こうやって働いている方が自分らしいです。」
「じゃさ、仕事はねたらイイトコ連れてってやるからな」
「ありがとうございます」
その日私達は、92人の娘と1人の男の撮影を終え、
半分乾いてしまった上寿司を脱力感いっぱいで摘みながら色々な話をした。
とにかくカメラマンになる事だけを夢見て田舎を飛び出し、
それこそ学費と生活費を稼ぐのに必死で式に出なかった人や、
親とケンカしたために家に帰れず、招待状を受け取る事が出来なかった人など、
皆の話を聞けば、誰も成人式に出ていない事が解って一同大笑い。
そして成人式に出れなかった私が、その後妙に可愛がられたのは
その妙な連帯感のおかげかもしれない。
(ひょっとしたらその夜「大人の遊び」と称して連れ回された結果かもしれないが(^_^;))
今日、至る所で晴れ着を着た娘達を見て、
その美しさと豪華さに加えた若さの眩しさにしばし時を忘れた。
仕事抜きでこんなに若者の晴れ着姿を見るのは、
不思議な事だが初めてのように感じる。
娘がいたら、きっとこんな姿が見たいんだろうな・・・と感じた時、
写真スタジオで撮影助手をしていた自分が蘇った。
「いつまでも子供でいたい・・」と明言する新成人もいたが、
いつまでも自分で責任取らない人間は社会には必要ない。
社会に出る事は、「自由」と「責任」と「義務」と「権利」を獲得する第一歩。
今年成人した人達には、是非、その意味と重さを理解し、
かつクールに生きて欲しいと思う。
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