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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

隠れ家

午前0時 横浜。

人通りは絶え、点いたままの看板がサーチライトの様に道を照らす。

動く物は、仕事上がりのコックと少し太り気味の猫。
それらは影絵のように、長い影を水たまりの残る裏道に投げた。


身を隠すには物陰を探すしかない。

しかし、追っ手から逃れるには息を潜めて壁と同化するより
目立たない店に飛び込んだ方が容易そうだ。

それには、夜目に慣れた人間でも暗さに戸惑う位、暗い店がいい・・・・

どっかにそんな店は無かったか?
こみ上げてくる危機への予感をねじ伏せながら、考える。


タケミ・・・・?
あの店なら真っ暗だが、一階で窓から丸見えだ。
店の明かりは、その窓から採っているんだから仕方ない・・・

チョーズプレイスの二階にかくまってもらう・・か?
いや、店が明るすぎるから、目につきやすい・・・

そうだ、彼処に行ってみよう・・・


関帝廟前の明るい道を一気に駆け抜け、一本裏道へ出る。
チェッカークラブの前の道では明るすぎて、遠くから見てもすぐ解ってしまうからだ。

中華街の外れまでどうにか来た時、その倉庫のような建物は目の前にあった。


手前の駐車場を努めて冷静に歩き、壁に無理矢理付けたようなコンクリートの階段を上る。
そして入り口の呼び鈴を押した。

すると、ドアを照らしていた照明が消え、
一瞬では中の人間の顔が確認できない暗さを持った室内への入り口が、開かれた。

これだ・・・この暗さだ・・・


この店の端のテーブルに居れば、追っ手が入ってくるのも監視できるし、
向こうもこっちを特定するのに時間がかかる。

最悪発見されても、最初から狙っておけばまず外す事はない。


「入り口が見える2階席は空いてるか?」

「申し訳有りませんが満席です。
 一階でしたら、カウンターとテーブルがご用意できますが、
 お待ち合わせですか?」

「あぁ、後から連れが来る。」

「じゃ、あちらの奥はいかがでしょう」

「ありがとう。4人掛けだが占領してもいいか?」

「大丈夫です」


カウンターは入り口から丸見えの位置にあり、しかも背中を向けたままになる。
ちょっとばかり特徴のある後ろ姿をしている関係で、みすみす背中を見せつける蛮勇は持てない。

だから、階段脇のアロワナの奥は、水槽の明かりが目眩ましとなって都合が良い席だった。
これで少なくとも4時までは休む事ができそうだ・・・・


「お飲みものは?」

「リベットをくれ。
 あと、牛舌サラダとなまず、それにお粥を」 
 

   グレンリベット 600円 牛舌と山芋のチョレギ風サラダ 850円
   ナマズの姿揚げ 900円 コムタンスープのやさしい中華粥 650円


「ロックでよろしいですか?」

「あぁ、頼む。 それと水も一杯」


腹が減っていた。
しかし今日は、ゆっくり食事をとれる時間は無かった。

だが今は、ヤツが来るかどうかを監視しながら、仲間が来るまで待つしかない。
ゆっくりと腹ごしらえをしながら、今後の動きを考える事にしよう・・・


目立つジャケットを脱ぎ、トイレに立つ。
この暗さなら、派手な腰回りを気にするヤツはいないだろう・・・・。

階段脇の奥にある古いミシンに手を伸ばすと、
ミシンは壁ごと右にスライドした。

この店で一番明るい部屋の入り口が表れる。
だから、一刻も早く用を足そうと気が急いたが、習性は抜けるものじゃない。

中の気配を窺い、誰も居ない事を確認してから個室に飛び込んだ。
勿論耳では、新たな入室者が居ないかを探りながら・・・だが。


平和な一時は誰にも崩されず、無事席に戻る事ができた。

相変わらずこの店の客は騒々しく、ちょっといかれた感じの若者ばかりが目に映る。

自分の格好も似たようなモノだから、丁度良い隠れ蓑になってくれるが、
縄張り意識の強い跳ねっ返りが近寄ってくるのはいささか鬱陶しく迷惑だ。

と、その時、脇腹に固く冷たい金属を押しつけたヤツがいた。


「ここに来ると思ってたよ」


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