「ここ?」
「そうだよ。
この席に座って見てごらん。」
「へぇ・・・
確かに日本じゃない感じがするね。」
「だろ?
これで廻りがうるさくて、美味しい匂いがすれば香港さ。」
「誰と来たの?」
「君の知らない人だよ」
「相変わらずね」
「それより、久しぶりだね? 随分」
「もう、あれから何年になるかしら」
「忘れたよ。
そんな昔の・・・」
「・・・事は?」
同じフレーズを同時に呟く。
まったく同じタイミングで電話をかけあったり、メールを送ったり・・・
そんな偶然があまりに多くて、二人の仲を近づけた事を思い出す。
本当にコイツとは、タイミングが合いすぎる・・・
誰かを好きになる時には、偶然が欲しい。
それだけで運命のようなモノさえ感じられる・・・
と解っていても、偶然はまさに偶然。
自ら演出できるものではない。
偶然が無ければハードルが高すぎて近寄れない事も多いから、
やっぱりそれを「流れ」と考えるのは自然かもしれない。
「あはは
ところで、急にどうしたの?」
「偶然このページを見つけて、読んでたら会いたくなった。」
「ふうん
『もう、二度と会わない』って言ったのは君なのに?」
「そんな事、言ったかしら?」
「言ったよ。 忘れてない・・・」
「そう・・・ ごめんね。」
「謝れって言ってないよ」
「・・・最近、話が通じる人が少なくて。
色々読んでたら、話がしたくなったのよ。」
「じゃ、身辺調査はしない事」
「そうね、関係無い事だもんね」
「で?」
「どうしてるのかな・・・と思って。」
「読めば解らない?」
「創作も多いでしょ?」
「も・・・ね。
一応『夢の話』とタイトルにあるでしょ?
ストレートに全てを書き記せば、不快に感じる人も出てくるからね。
言いたい事を見つけたら、それを出すために現実の一部を借りるだけさ」
「でも、全部事実の事もありそうね。」
「あはは。 無いって事にしとこうよ。
実際、個人名が特定できそうなパートは、出さないようにしてるよ。」
「なんか、毎晩大酒喰らって食べ歩いて、そのくせ一人きりで生きてるって感じはするけど、
彼女は当然いるんでしょ〜??」
「勝手に想像すれば・・・・
身辺調査をしないように!ってさっきも言わなかったっけ?」
「あはは。ゴメンゴメン」
笑って謝る彼女を見て気がついた。
その笑顔に惹かれて、同じ道を走ろうとした事に。
あまり笑わない彼女が自分と居る時だけ素敵な笑顔を見せる事は、
誰にも教えたくないけど見せびらかしたい事実でもあった。
時の流れは、許し難かったお互いの行動を消し去り、
感情のリセットををある程度行えるモノらしい。
「なんか、失敗しちゃったな・・・て思う」
「何を?」
「自分の歩く道の、選び方」
「いきなり重めの話?」
「そうじゃなくて、
こんな時間を大事にしていた自分を忘れてたなって・・・」
「反省?」
「うん・・・」
「後悔??」
「・・・・・」
「後悔なんて絶対しない!」と叫んだ彼女を思いだしていた。
キッと鋭い眼差しを投げつけ、出来ない選択を迫り、
出ていた答えを引きずり出そうとしていた彼女に、
捨て台詞のように「後悔するよ」としか言えなかった。
その思い切りの良さも好きだったが、
自分達のリレーションも簡単に切ってしまうとは、信じたく無かったのだ。
「子供、どう?」
「大きくなったわ。
生意気で・・・
でも可愛い・・・ね」
「欲しくないって言ってた君からは信じられないけどね」
「この店いいね。
お茶もマトモ。
やっぱり、私の気に入る場所を知ってるのね」
「そりゃそうでしょ。
良いと感じるモノが似ているんだから。
俺が美味しいと思うものは、君も美味しいと思うんだよ」
「そうだったよね・・・・」
食事を一緒にするのは、色々な意味で大事だ。
生理的欲求を満たす行為は、ある意味無防備な状態で行うモノ。
だから、その時間を共有するだけで、リレーションは太くなる。
そして、好き嫌いや食べ方の類似を見つければ、
その人とは色々なシーンにおいて楽しい時間を共有できる可能性が高い。
「そんなに砂糖入れたっけ?」
「普通よ、コレくらい」
「そうだったっけ・・・か」
昔、太るから・・と絶対砂糖を入れなかった彼女が、
今は無意識に砂糖を入れている。
そのシーンを見た時、彼女が違うレーンを走っている事を再確認した。
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