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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

イブの夜には

「クリスマスには一緒に食事でしょ?」

そうかなぁ・・・・
どうしてかなぁ・・・・


そう思ってしまう程、何となく拘束されるクリスマスを送ってきた私にすれば、
イブの夜なんて最悪の夜と考えるのは自然な事。

何故なら、いつもは満席なんかにならない店でさえカップルだらけで溢れかえり、
突然メニューが高いモノに替わり、普通に食事をするシングルやグループは
胡散臭そうな視線に晒されるからだ。

ただ、そんな日にでも確実に美味いモノを食べる事は、不可能では無い。
それは、若者カップル好まない店に行けばいいのだけの事だ。

どんな店か・・と言えば、

(1)客単価が高い、もしくはとても安い
(2)一見では入りにくい
(3)デートに合わない

という店なのだ。

で、私の場合、和食を出す客単価5000円以上の店、となる。
(寿司屋・懐石料理店・高級割烹・・・)

こういう店には無粋な中年カップルは居たとしても
間違いなく無粋な若者カップルは来ない(来れない?)。


と言う事で、友達と晩飯を食いに行くのに選んだのは、
毎度の山田屋であった。(← またかい?)


「いらっしゃい」

「やっぱり・・・」

「何がですか?」

「今日はきっと、カウンターに誰も居ない・・と思ってた。」

「来るのが遅いんですよ」

「という事にしておこう・・・
 今日は『ちり』食わして」

「『ちり』ね。一人分でいいよね」

「勿論。 この間言ってた美味い雑炊を食べたくてさ。」

「じゃ、軽く握りを食べて鍋つついて、最後に雑炊でいい?」

「よろしく」


山田屋は、冬は河豚をメインに出す店だ。
だが、河豚のコースは高すぎる。(8000円から)

前回(12/14)はそれだけ食べたかった「雑炊」を食べたが、

「今度は『ちり』を一個とってよ。
 そしたら私が全部作って出すし、最後に特製の雑炊を作ってあげられる。
 それは、このカウンター以外では出せない物だし、
 今日の雑炊とはまた違った物だから・・」

と言う板長の言葉が、ずぅっと頭の中を回りっぱなしだったのだ。


板長は嬉々として鍋をセットし、特別な煮こごりを持ってきて味を作り始める。

それは確かに、普通にふぐコースを頼む時とは別な作り方で、
見ているだけでも美味しそうに感じられた。

アラの部分を入れ、野菜をたくさん入れ、刺身で食べられる切り身を菜箸で
「しゃぶしゃぶ」の様に出汁に潜らせて出してくれる。


「やっぱりコッチの切り身って、こうやって食べて良かったんだ・・・」

「刺身で食べられるレベルの物は、表面だけ温めて食べる方が美味しいですね。
 よく握って出すトラは、表面を熱で締めて歯応えを調整したりするけど、
 河豚刺で食べられるように時間をかけた物は、やっぱりなるべく生で食べた方がいい」


板長の解説付きで食べれば、何回も経験の無い「ふぐちり」も美味しく食べられるってモノ。
この会話も味の一つと考えれば、勝手にやって・・・とばかりに出されるコースより高くついても
十分に楽しめ、かつリーズナブルと思えるのだ。


若い頃、「河豚」や「ステーキ」はそれこそ夢の食べ物だった。
いや、今だってそのコストを考えれば、おいそれと楽しめるモノじゃない。

ただ、若者どもが巷でバカ騒ぎしている日に友人と食事をするのには、
少々贅沢でもそいつらより遙かに安くて遙かに美味しいモノが欲しい・・・と思ったのだ。

そしてその「贅沢」は、コストの高さだけで感じられるモノではなく、
「贅沢」意味を理解してはじめて、その価値に対してコストに納得がいく。

そんな基本的な事を知らない人間が多いため、
私にとってはリーズナブルな贅沢が可能となる。

が、そういう贅沢を得られる場所もまた、少なくなってしまうのは仕方がないのだろう。


料理の基本は、心。

調理人に「美味しく食べさせたい」という気持があれば、材料以上の味が必ず生まれる。

火加減も捌きも芸術的に見える板長の調理によって、
「特製ふぐ雑炊」は経験した事の無い美味しさを見せてくれた。


「板長にとって、贅沢って何?」

「500ccのアイスクリームってあるじゃないですか?
 おっきめのカップに入ってるやつ」

「レディーボーデンとかの?」

「そうそう。
 アレを抱えて食べきるのが『贅沢』・・・かなぁ」

「500って結構、大きいよ?」

「えぇ、でも全部いっちゃう」

「何か安上がりな『贅沢』だよねぇ」

「風呂上がりに冷凍庫から一個取り出して、テレビ見ながら食べ切っちゃう。
 それって幸せを感じられる瞬間ですよ」


ケチャップいっぱいの「スパゲッティ・ナポリタン」が好きだったり、
アイスクリームを500cc食べちゃったり、コーラが大好きだったりする板長だから、
一見ミスマッチと思える料理を提案できるのかも知れない。

そして、そんな変なモノを楽しみにできる私とは、相性がいいのかも知れない。

そんな関係を作りあげるのにかかった時間とコストは、計算したくない程かかったのだが、
その費やしたモノの重さがあってはじめて、この「プチ贅沢」が楽しめるのだろう。


ちなみにこの日の支払いは、握り5カンに酒二本(加茂鶴)を加えても一人5500円を切った。
(何故、何を食べても5000円/人前後なんだろう・・・ね(^_^;))

 
 
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