「おでん食べたいよね〜」
「そうだよね〜
でも、『蕪家』はもう無いんだよ〜」
「じゃ、『野毛おでん』に行こうよ〜
系列店だから味は一緒だよ〜」
「そっか〜
じゃ、行ってみるか〜」
友達に誘われて、関内に足を向けた。
居酒屋然とした店舗が好きになれず、いつも「蕪家」の方に行っていたが、
「味は一緒・・」と聞かされれば行きたくなるのは当然の事。
「蕪家」の雰囲気は無くても味が残っているなら、行かない手は無い。
「野毛おでん」
045-251-3234
横浜市中区吉田町2−6
11:30〜21:00
日曜休
「あっれ〜?
電気点いてないよ〜」
「え〜??」
「今日、日曜だった・・・・」
「どーする・・・・ば・ん・め・し〜♪」
「頭の中に、おでんが舞ってるんですけど・・・・(;_;)」
空きっ腹を抱えた二人の鼻腔をくすぐるのは、鰻のタレが焦げる匂い・・・
それはあまりに魅惑的な匂いだった。
「『濱新』行く?」
「鰻?」
「ひつまぶし」
「行く」
なんて安易な二人だろう・・・
「濱新」
045-251-0039
横浜市中区吉田町3-1
11:30〜14:30 16:30〜22:00
この前の失敗を思い出し「ひつまぶし」は最後に・・・と伝える。
ビール(大) 700円
純米酒2合 1200円
うざく 700円
牛肉の柳川風 1000円
銀杏焼き 600円
ししとう焼き 350円
野菜天麩羅の盛合せ 1000円
ひつまぶし 3000円
濱新の鰻は、関西風の鰻を思い出させる。
ちょっと固めの歯応えと、しっかりとした脂。
炭で炙ったためにつく独特の香ばしさが美味しい・・と、この前来て感じていた。
ここの「うざく」はきっと「蓬莱軒」で食べた「うざく」に似るはずだ・・・
と思ってオーダーしてみると、大正解だった。
酢が少し弱いが、鰻にはピッタリ合ったハーモニーだ。
ただ、鰻の量が少なく、一人一鉢頼めば良かった・・・と反省する。
横浜では老舗の料理店だからか量は上品だ・・という事を忘れてた。
続いて出たのはグツグツと煮えている「牛肉の柳川風」
玉葱と牛蒡と牛肉を煮て卵でとじたソレは「すき焼き」テイストで美味。
本当は長葱をタップリ入れるか「駒形どぜう」の「どじょう鍋」の様に長葱を上に
どっちゃりのせて食べたくなった。
昔、長葱は好きじゃなかった。
あの辛さと匂いが苦手で、避けて食べる程だった。
なのに、ある時出会った長葱は、そんな好き嫌いを一蹴した。
それは私が18才の頃。
友人と友人の従兄弟と一緒にスキーに行った時の事だった。
貧乏な学生時代だからできる夜行日帰りのツアーを組んで
新潟まで足を伸ばした帰り道の事、高速代が惜しくて下道を走っていて
凄い渋滞にハマってしまった。
あまり寝ていないのに渋滞にハマると、恐ろしく眠くなる。
運転者を寝かさないように・・・と色々な事を喋ったりするのだが、
それもやがてネタ切れになるのは解っていた。
夕方までには帰ろう・・と目論んでいたのにも関わらず、既に真っ暗。
車は東京から遙かに離れた場所で、時速10キロ位のスピードで移動している。
道路脇には畑と民家、コンビニなんて無い時代だから
ちょっと止めて気分転換するのも難しい。
「オイ!
葱買ってかないか?」
と突然ドライバーが叫ぶ。
回りを見れば、畑の前で農家が束ねた長葱を売っている。
長葱かぁ・・・
あんなにたくさん買っても食べないよなぁ・・・
買って帰れば、間違いなく我が家は葱だらけの料理になるんだろうなぁ・・・
「ここら辺で売ってる泥つきの長葱は、滅茶苦茶美味いんだぞ。
知ってるか?」
「長葱・・・そんなに好きじゃないからなぁ」
「騙された・・と思って買ってみな。
美味しくなければ、近所に配ればいいじゃん。
どっちにしても俺は買うぞ!」
それから3人は、道路際のにわか葱屋の品定めで気分を盛り返し、
飽きた頃、車を停めて長葱を買った。
凄い長葱の匂い・・・
玉葱程じゃないが、当分この車は葱臭いだろうな・・・と呆れる程。
「どうしたの?
こんなに長葱買ってきて??」
母親が嬉しそうな声を上げた。
しまった・・・、この人長葱が好きだったんだ・・・・
当分、何にでも長葱入れちゃうんだろうな・・・・
味噌汁も料理も葱だらけ、決定・・・か(;_;)
「麻婆豆腐作ろう・・と思ってたから、この葱使ってみよう・・・」
あぁ、やっぱり・・・
あの人が作るのでは麻婆長葱になるのは見えている・・・
「さすがにこんなにあるから、友達の家にお裾分けしてくるよ」
そう言い残し、直径30センチ以上ある長葱の束からゴッソリと抜き出し、
車で10分以上かかる友達の家に長葱を持っていった。
「どこでこんなに葱買ってきたんだよ?」
「う〜ん、場所は良くわからないんだけど、深谷の傍だったような・・・」
「おぉ・・・、じゃ、きっと美味いぞ〜」
「そうなんだ?」
「こりゃ『すき焼き』かな。 直に焼いてもいいな。
ちょっと炙って、今食べるか?」
「とんでもない。
俺、あんまり長葱好きじゃないんだよ。
何となく付き合いで買っちゃったから、持ってきたのさ。
ここで、食っちゃったら母親が作った麻婆長葱食えなくなっちゃうよ・・・」
「あはは。
じゃ、遠慮無くもらっとくぜ」
ヤツは長葱が好きらしい。
お陰でコッチは長葱地獄から逃げられるのだから、友達様々だ・・・(^_^;)
自分で撒いたタネは自分で刈り取らなければならないから・・・と、
麻婆長葱の待つ我が家へと帰路についた。
「おかえり〜 遅かったね。
先に食べちゃってるよ」
「あぁ」(ラッキー、長葱少しで済みそうだ)
「やっぱり新鮮な葱は美味しいわ。」
え?
ええ?
ええぇ???
何だか、凄く美味しいぞ、この長葱。
麻婆豆腐に爽やかな辛さと甘さを与えてるのは、
間違いなくこの長葱の味だ・・・・。
「美味しいでしょ?」
「美味しい・・・
もう残りは無いの?」
「あんた、あんまり長葱好きじゃないから、食べちゃったよ」
それは無いでしょ、お母さん!
少ない小遣いで買ってきたのは私でしょ?
スポンサーが全然食べられないって、そんな酷い話はないでしょ??
本当に美味しい物を食べると、
その記憶で、その姿を想像できるだけで、楽しめるようになる。
カスクストレングスのモルトを飲んだ後に、同じブランドの加水した物を飲んでも、
カスクの強さや印象が美味しく感じさせるような事。
だから、本物の味や本当に美味しい味を体験する事は、必要だと思っている。
以来私は、その時の長葱の味の記憶で、長葱を食べられるようになったのだから。
「これで、長葱を炙ったヤツがあったら良いんだけど、
さすがに焼鳥屋じゃないから無さそうだな・・・」
「野菜天があるから十分じゃない〜?」
「かもね〜」
鴨にも葱・・・・・
なんて無意識に考えて、心の中で大笑い。
そういや、こんな寒い夜に長葱買ったっけな・・と思い出した夜、
「ひつまぶし」にも浅葱より長葱なんて思う位、長葱が好物になっている事も再認識した。
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