「お前は何でもできると思っているんだろうが、
実は大した事が無いって教えてやるよ」
そう言った男は、私のPCからハードディスクを抜いた。
そうなるとPCはただの箱。
そしてその瞬間、まさに自分がこの会社においては何もできない事を思い知る。
なんだ、俺って何もできないヤツなんだ・・・・
しかし今は、そんな事を言ってる場合ではない。
まずはこの仕事をどうにかしてヤッツケなくてはいけない・・・・・
ハッと目が覚める。
何だ夢か・・・・
仕事の夢を見るなんて、ホントに病気だな・・・
呆れながら時計を見ると針は3時50分を指している。
まだ眠れるな・・・・と思う間も無くまた眠りに落ちた。
フルスケール260km/hのメーターなのに、針は数字の無い部分を指したまま。
吸気音と排気音の合唱は頭の中心で共鳴し、風切り音とのミックスダウンで他の音は聞こえない。
ミニカウルをつけていなければ、こんなに楽なライディングは無理だったな・・・と
無駄な出費でなかった事を確認しながら一番右側のライン上を走る。
突然、ブルーのR34が中央分離帯ギリギリにまで車体を寄せ、私のラインを遮った。
バカヤローと叫ぶと同時にフルブレーキをかける。
速度差は100km/h以上ありそうだ・・・
間に合うか・・・
しかし、ブレーキに反応は無い。
このままではぶつかる・・・
身体の中心に冷たい何かが居座った・・・・
と思った瞬間、私はR34を通り抜けた。
その瞬間からバイクのスピードは加速を続け、全ての物を通り抜けていく・・・・
これは夢だ・・・
間違いなく・・・夢だ・・・
しかし、そう気づいても目が覚めない。
ひたすらバイクは走り続けていくのだ。
やがて私は、黒い何だかわからない固まりにぶつかって、やっと止まれた。
自分の手を見ると、向こう側が透き通って見える。
自分の身体も全て同じように見える。
しかし、鏡に映る姿はいつもの私の姿でしかない。
ありゃりゃ・・・と胸の辺りを見ると、
さっきぶつかった黒い物が直径20センチ位の穴に詰まっている。
何だこりゃ・・・と思った瞬間、その黒い固まりが喋った。
「悲しみだよ」
「はぁ?」
「世の中に存在する『悲しみ』なんだよ」
「はぁ・・・で、何故お前はそこにいるんだ?」
「お前の心が無かったから、ちょうど良い具合にはまっただけだ」
「え? 心が無い?」
「無いから私がはまったんだよ」
「俺の心はどこへいったんだろ」
「大方、どっかにひっかかっているだけだよ。
心はちゃんと身体に繋がっているか、やがて帰ってくるよ。」
「そんなものか・・・・」
「相当な速度でやってきたな」
「ずいぶん早かったが、どれくらいの速度かはわからないよ。」
「そうか。 おや、お前の心が帰ってきたようだ。」
ヒューンという音を立てて、何かが後ろからやってくるのは解った。
しかし振り向いても何も見えない。
「お前が走ってきた速度と同じ早さで、お前の心が帰ってきたぞ。」
「上手く、元通りになるかな」
「抜けて前へ行っちゃうかもしれないが、
やがてちゃんと元の位置に戻るから心配するな。」
成り行きに任せるしかないな・・と腹をくくる。
しかし、心がある位置に詰まった「悲しみ」とやらも、
有るだけで暖かいものだ・・・と感じたりする。
「おい!お前!!、このまま私が中に居てもいいと思ってるだろ?」
「そうかも知れない」
「何も無いより何でもいいから欲しいって思ってるのか?
例えそれが『悲しみ』しかないモノだと解っていても、お前はそう望むのか?」
「解らないが、何でも良いなんて思わないさ」
「なるほどな」
スパーン!
と凄い衝撃音がして、私の心が有るべき場所に戻った。
無くしていたモノが帰った安堵感は、しかしどことなく冷たい感触を持ったまま
身体の中心からジワジワと広がっていった。
あれ?
身体の中心にある丸い形をした心が、マダラに見えるゾ・・・・??
何だか、辛子レンコンのような感じだ・・・・(^_^;)
「どうやら私がお前の心の中に入ってしまったらしい」
「はぁ? それじゃ、いつも悲しいのか? 俺は?」
「どうだろな、私には解らない。
しかし、お前の心は穴だらけだな。
だから私はお前の心の間に入り込めたんだな。」
「そんな・・・」
「どうせ私が居なくてもこれだけの穴が空いてれば、
寂しさを感じてやりきれないだろう?
だったら、私が居ても居なくても同じではないか?」
「心の穴は、他のモノで埋める予定さ。
だから悪いけど出ていってくれ」
「残念だが、私は私自身で動く事はできない。
だからお前がお前の方法で、私を追い出す事を考えてくれ」
困ったな・・・
こういう場合、どうしたらいいか解らない。
もう一回バイクに乗って色々なモノを通り抜ければ、
「悲しみ」もまた置き去りにできるのだろうか?
何だかなぁ・・・と途方に暮れながら、その「悲しみ」を指で押してみると、
綺麗に押し出されて煙のように消えていくではないか。
やった!
思ったより簡単に「悲しみ」を捨てる事ができそうだ。
ちょうど中指一本を根元まで突っ込めば、一つの穴に詰まった「悲しみ」が消えていく。
指を抜けばそこには、綺麗に輝く私の心と「悲しみ」のあった穴が空いて、向こう側がよく見えた。
しかし、穴が空いた分風通しが良く、少し寒い感じがする・・・・。
「悲しみ」を全部取ってしまいたいが、寒いのもなぁ・・・と思いつつも、
「悲しみ」を押し出していくのにも少しだけ快感があって、やめる事ができなくなった。
一つ穴が空くと身体が冷え、一つ穴が空くと寂しい気分になる。
しかし、片っ端から穴の中の「悲しみ」を押し出す事に熱中すると、その寒さも快感になってきた。
寒いなぁ・・・
やっぱり、穴空けすぎたかな・・・・・
それにしても風邪引くぜ・・こんなに寒きゃ・・・
と震え上がって、目が覚めた。
って、寒いの当たり前じゃん。
布団を剥いで上半身を剥き出しにして寝ていた私は、寒さに凍えそうになって目が覚めたのだ。
しかし、変な夢だった。
(しかも2本立て)
|