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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

しぼりたて

久々に先輩と飲む。

最近、年上の人と飲む機会は殆ど無く、
おかげさまでワガママな飲み方を楽しんでいられたのだが、
今日ばかりはそんなスタイルを固持する意味は無い。

で、生ビールから日本酒というコースを楽しむ事になったが、
これもまた懐かしくもリーズナブルで満足できるモノだと再認識した。

「トリアエズ・ビール」なんて名前のビール作ったら絶対売れるよな〜と
馬鹿話するほど最初はビール・・・の飲み方は、じつは今も当然の如く行っている。


初めての店の場合は、そのビールの銘柄で店の傾向を探る事が多い。

商品名を言わないで頼んで出てくるモノはその店で一番売りたい物だから、
サントリー系の店なら間違いなくモルツ、キリンなら一番絞り&ハイネケン、
アサヒ(ニッカ)だったらスーパードライで・・・となっていく。

何がいい?と聞かれる店はある意味「当たり」。
ビール好きに配慮できる売り方をする店なら、酒もそれなりにバリエーションがある証拠。
逆に、コレしかない・・・という出し方をする店は、
コストダウン優先の品揃えである場合が多い・・・と経験が叫ぶ。

料理主体の店はお仕着せパターンが多く、酒主体の店は選べる場合が多い。
安い店ほど選択肢は少なくなり、店の格好に拘りすぎる店も同様になりやすい。

つまり、酒や食材の仕入れにどれだけ予算を使い、バランスをどこで取るか・・・という事だろう。


「七福」は,激戦地・野毛で商売するだけあって、とっても安い料金で楽しめる配慮が随所に見える。
高い日本酒の仕入れは少なく、安価でも一味違うような酒を多く揃える。

今日、そんな観点で仕入れたであろう酒を、先輩と一緒にオーダーした。


「〆張鶴・しぼりたて」580円(1合)

いつもは焼酎が好きな彼も、焼酎に耐性の無い私と飲む時は次に好きな日本酒になる。
(以前「〆張鶴・純」を二人で1升5合あけて意識を無くして以来、量は気をつけるようになった)

垂れ口とかふな口とか呼ばれる「しぼりたて」
もろみを絞って最初に出るモノを瓶詰めする・・・とよく言われるが、
その分エキスが強くアルコール度も高い事がある原酒っぽいモノを指している事が多い。

生原酒となれば美味しいけどかなり酔う・・・というイメージがあるが、
安く美味しくしっかり酔える・・というパターンには持ってこいの酒だと思う。


宮内庁にも出している・・・と聞いている造り酒屋に行った時、
たまたま原酒のテイスティングをしている場面に遭遇した事がある。

その当時はまだ、酒に級別があって主税局の人間が検査に来ていたのだ。

湯飲みよりちょっと小さい陶器の器。
全体は白で底には蛇の目の模様が入っている。

主税局の人間は全てのタンクから出した正に原酒を並べ、片っ端からそれを試飲しているのだ。

口に少し含み、ずるずるずる〜と音を立てながら息を吸う。
そして横のバケツに吐き出し少し上を向く。

うがいしてるのか?
と疑いたくなるような行為にも見え、仕事の邪魔になりそうではあったが声をかけてみた。


「何をなさっているのですか?」

「あぁ・・ 、これは今、級種を決めるための味見です」(解ってるよ・・・それは)

「面白い器ですね」

「えぇ、これは味見専用のぐい飲みで、どこの酒屋さんにもあるものです。
 白いのと、底に蛇の目の模様が入っているのは、酒の色を判断するためです。
 ワインなんかでは白い紙を向こうに置いてグラスを傾けて色を見ますが、
 私達は蛇の目の間の白い部分で色を見るのです。」

「すいません、お仕事中に。
 初めてこういうモノを見たので、気になってしまいました。」

「いいぇ、構いません。 
 もう一通り見てしまいましたから・・・・
 せっかくですから貴方も味見してみませんか?」 (いいんですか〜???)

「それはもう、お許しが出るのなら喜んで・・・」(どうせ日本酒だから大した事ないだろうし)


その時のマイブームはワイン。
それもジュースに近いドイツワインが大好きだった私にとって、
日本酒はベタベタと甘く後味の悪さと熟柿のような匂いが嫌いだったモノ。

しかし、テイスティングのプロがやる手法を覚えれば、ワインのテイスティングにも生きるのでは・・・
と安易に考え安易に好意に甘えてしまったのは若さ故かも知れない。


「じゃぁ、酒を舌の上にのせて、その酒が充分に空気と混じるように息を吸い込んでください。」

ずるずるずる・・・・

「っとこういう感じです。
 その後、その吸い込んだ息をゆっくり鼻から吐いてください。
 そうするとお酒の香りが見えるのです。」

「飲んじゃ・・・ダメですか?」

「飲んでもいいですけど、酔っぱらったら全部のお酒の判断が均一にできません」

「そうですね・・ でも勿体ない」

「少しは飲むんですよ。
 ただ、酔う前に判断したいので先に香りだけは読んでしまってから、
 もう一回見ながら少し飲んで、喉越しや喉から返ってくる香りを見たりします。」


え・・・・・
これ・・本当に・・・日本酒・・・ですか?

声も出ない程、驚いた。

ドイツワインにもまけないほどの爽やかさと甘さ。
嫌な後味など微塵も無く、香りもまた清々しい・・・・


「・・・あの、これ本当に日本酒ですか?」

「そうです。 これが日本酒の味です。」

「しかし、市販しているモノでこういった味を持っている物には出会ってないのですが」

「そうでしょうねぇ・・・。
 これはタンクの中から出した物ですから、まだ生きている酒であり何の混ぜ物がない酒なのです。」

「市販されているものは違うのですか?」

「ここに甘酒等を入れて味を調整してから出すのですから、全然違う味になるでしょうね」


当時(もう20年近く前)の日本酒は、甘くベタベタしていないと売れない・・物だったらしい。

蔵元にこれだけ美味しい物を何故出さないのか?と尋ねてはじめて、
その悲しい現実を知らされた。

そして・・・
そのフルーティーで雑味のない酒が忘れられなかったために、
その後10年以上に渡って、日本酒をメインに飲む・・なんて事は考えもしなかった。
(その酒屋の「しぼりたて」だけは、たまに買って飲んだがそれでも飲みきれなかった)


〆張のしぼりたては初めてだなぁ・・・と飲んでみると、すっきりとしているくせにコクがある。
そして何より、しっかりとしたボディを感じられる事が素晴らしい。

まだ若さが溢れてるいるようなパンパンに張った顔をして、
それでも無理してスーツを着ているんだけど子供に見えるちょっと太めの女性って感じか・・・(爆)


これで580円って・・・・

地酒ブームが来て、吟醸酒も当たり前に流通し、
昔ながらの日本酒の味ではない素晴らしい酒が溢れる事はありがたい。


積もる話がメインの肴になる日、酒はどうしても脇役になってしまう。

そんな日に出会った酒としては少しばかり美味し過ぎる気もしたが、
それはまぁ・・贅沢な意見でしかないだろう。

そして話は尽きる事無く、結局モルトまで飲んでしまった・・・と(爆)

 
 
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