「20日の夜中ってどうしてる?」
「いつも通りの仕事だけど・・・」
「ちょっとロケ行ってきて欲しいんだよ」
「夜中に何撮るんですか?」
「ボジョレーの解禁」
「12時ジャストに飲むって事ですか?」
「横浜が世界で一番早く飲めるからって、スポンサーがついたんだよ」
「じゃ、そのボトルは『お約束』で抜け・・・と」
「大丈夫、酒屋じゃなくてホテルだから・・・」
「じゃ、保税倉庫で受けて、ホテルのパーティーまでを紹介って事?」
「作り方は任せる。10分枠だから、ちょっと派手に作って。」
「了解。 リポーター使っていい?」
「ダメ。 そこまで予算無い。」
「じゃ、技術は局カメ?」
「報道を用意してる」
「じゃ、ニュースにも使う・・・のね」
「よろしく」
よろしく・・・、じゃねぇ〜よ。
報道カメラマンじゃ、じっくりとしたカメラワークなんてできないじゃん。
ドキュメントタッチと言えば聞こえがいいけど、ぶっ繋ぎで時間経過を感じさせつつ緊張感ばらまいて
最後に乾杯で締めるしかないなぁ・・・・
と悩んだのは、バブル全盛期の頃の事。
当時はプログラムディレクターをやっていた私にとって、
ボジョレーヌーヴォーは自分で飲むモノでしかなかったのだが・・・・・。
その年、時差の関係で「横浜」が世界で一番最初にヌーヴォーが飲める事は、各メディアでたくさん紹介されていた。
で、私の担当する番組でもヌーヴォー紹介コーナーの制作は予想できる事だった。
しかし、深夜0時ピッタリに保税倉庫を出発し、それを店まで運んで飲む・・・
という「最後は早いモノ勝ちレース」を取材するとまでは考えていなかったのだ。
「どうやって撮んだ?」
「ここは、ニュースっぽくいきます。(お得意のね)
時間わかるカットと出発を待つこのボトルの山、積み込むシーン撮ったら、
表回ってトラックを受けてから追っかけます。」
「車は?」
「表で撮る場所にスタンバイしておきますから、撮ったらまんま乗り込んで
併走して撮ります。 全景とドライバーの寄り、積み方次第ですけどボトルの箱も・・・」
「そんな撮んのかぁ?」
「10分埋めるんですから。
もろドキュメントっぽく繋ぎます。
だから、さっき港撮ったりしたんですよ」
「カメラワーク無しで撮れっつ〜のは、そういう事かよ」
「時間調整って意味もあるんですが、やっぱりメリハリっつ〜もんがあるでしょ?
動と静だから、緊張感出す所はかついでアクティブに撮って盛り上げ、
導入や転換の場所はフィックス(三脚使用でカメラワークしない事)で・・・ね」
「VP(ビデオパッケージ)じゃないんだから・・・」
「カッコ良く作りたいじゃないですか。
大将のカメラワークって動きが迫力あるから、それを利用させてください」
「わかったよぉ・・・」
その日、バリバリのカメラマン達は皆押さえられていて、残っていた古参のカメラマンが私についてくれていた。
気の良い人間だが年齢差は15才以上あって、しかも鬼軍曹みたいな人だからコッチも少しだけビビっていた。
(言うこと聞いてくれない・・という噂も聞いていた)
しかし、さすがは長老。
最初はお互い上手くコミュニケーションが取れなかったが、
撮る画はピシッとしていて確実で快い。
向こうもこっちの指示の意味を理解すると、
言わなくても必要なカットをガンガン撮ってくれるようになった。
12時と同時にトラックは保税倉庫を出る。
今日、世界で一番早く飲めるのは誰だ〜とばかりに、各会場に向け散らばっていく。
併走しながら必要なカットを撮影した後、会場まで先走って到着シーンを撮影し、
ボトルケースを追いかけながらパーティー会場へ飛び込んだ。
「到着で〜す」
うおぉぉぉ!!!
待ちかねて出来上がっている酔っぱらい達が吠える。
そして我先にヌーボーに向かってくる。
「それでは皆さん!乾杯!!」
カンパ〜イ!!
最初の一声でが〜っと飲みだした人々は、誰彼関係なく入り交じって騒ぎだした。
出来上がってしまった花見の宴に飛び込んだ・・・と言えば、その雰囲気を理解できるだろうか。
撮影して我々にも「飲め飲め」とうるさい酔っぱらい達。
こっちはそのバカさ加減を淡々と切り取っていく・・・・・と(^_^;)
「後、15分で解禁ですけど・・・
今日仕入れてきますから、今夜は飲めません! ごめんなさい!!」
「誰も期待してないよ(^_^)」
「ま、縁起モノみたいなもんだし・・・」
「俺はウィスキー飲んじゃっているから、もうワインはどうでもいい」
「皆、冷たいんだからぁ(;_;)」
「で、明日はちゃんとあるんでしょ?」
「もちろん。 ビラージュと普通のと入れときま〜す」
ロブロイでそんなやりとりをしていて、
あの時の今頃、横浜税関の保税倉庫で震えてたな・・・と突然思い出した。
現在のヌーヴォーは、店への事前入荷が当たり前なようで、
「12時になりましたので如何ですか?」と勧められるのは毎年の事。
去年は勧められるまで解禁日を忘れていた・・・・(爆)
随分ボジョレー・ヌーボーも気楽な扱いになったものだと思うが、
それでも今年は凄い量が入荷するらしい。
明日仕事帰りに、何本か買って帰ろう。
ちなみに私がお薦めのブランドは
ルイ・ジャドー社のプリムール(新酒)という名前がついたボジョレーヌーヴォー
(定価:3200円)
このメーカーはヌーボーの通常製法であるマセラシアン・カルボニック法でなく、
葡萄の発酵力だけに頼る伝統的な醸造法で作っているため、かなり長期間フルーティーで楽しめる。
これを3本位買って、一本はその日に飲んじゃって後は正月に飲むのが私のルール。
美味しい年のモノは、通常のボジョレー・ビラージュ(コンボージャック)を買いたす事も。
ま、要は飲んでみたいだけなんだけどね(^_^)
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