「お〜い! ラーメン食おうぜ〜」
呂律の回らない声が携帯から流れる。
「何時だと思ってんだよ?」
「11時だよ。 悪いか?」
「こんな時間からラーメンかよ・・・」
「どうせ飯食ってないんだろ? 知ってるぜ!」
そうだよ、まだ飯食ってね〜よ
「だから、中華街でラーメン食おうぜ!」
「中華街にお前が言うようなラーメンは存在しないよ。
ましてこんな時間だぜ、やってる店なんてねぇ!」
「でも、少しは開いてる店があるんだろ?
いいんだよ、暖かい汁物が食えれば。」
「そんなら・・・大丈夫だな。
んじゃ、善隣門の傍まで来いよ。」
「おっけぃ、ってもう近くまで来てんだけど・・・・」
「老正興菜館」
045-681-3222
横浜市中区山下町144
11:30〜翌4:00(LO翌3:30)無休
もう、馬鹿の一つ覚え。
この時間に開いてる店は、他には「北京飯店」「山東」「梅蘭」あたりしか思い浮かばない。
で、最近いつもこの店に行ってしまうのは、上海料理をあまり日頃食べないからだろう。
ヤツは日本酒を飲んで良い調子であるが、こっちは何となく食べそびれて腹ペコ。
しかし、空き過ぎるとどうでもよくなるらしく、食欲は今一歩であった。
この間食べたスープ炒飯って気分でもなく、排骨麺(伝統の一品)という程元気はない。
とっとと合方が「坦々麺」をオーダーするのを横目で見ながらメニューを見ると・・・
「上海大雲呑」(900円)
が目にとまった。
ここの小籠包はそこそこいけるので(と言っても「北京飯店」の方が好きだが)、
きっと皮を主食として食べる雲呑も美味いはず。
で、それをオーダーしてみた。
上湯は中華としては基本のスープ。
それが美味しくなければ、その店は何を食べても美味しくない・・・・
と言っての良いほど大切なモノで、しかも余計な混ぜモノが少ないためアッサリといただける。
だから期待してオーダーしてみた。
そして出てきたソレは、期待通りの上品さを見せていた。
普通の雲呑はフワフワでお捻りのような形をしているはずだが、ここのは四角く折り畳んだモノ。
その雲呑が10個に、揚げ葱をちらし、ザーサイを細く切ってのせてあった。
もちろんこれでも丼いっぱいの雲呑に見える程のボリュームで、
もう一品食べるかどうか最初から悩む量ではない。
へ〜・・と思いながら箸をつけると・・・
エッ?
初めての味だ、コレ・・・・
上湯だから普通の塩味と思ったら、酢が入ってる。
そしてその酸味が、実に爽やかで美味しいのだ。
こんなスープを中華街で飲むのは初めてで、期待を嬉しい方向に裏切ってくれたわけだ。
雲呑は折り畳むだけの皮の大きさがあるので、そこそこボリュームがあり歯ごたえもまた楽しい。
豚骨ラーメンに入れる紅生姜にも似た切り方のザーサイはしつこくなく、微妙にバランスが取れていた。
中華街で酸っぱいスープと言えば「酸辣湯」と「冷やし中華のスープ」がポピュラーだが、
このように酢がちゃんと全面に出ていて、しかも酸っぱすぎないスープは珍しい。
しかし、このスープに似た物を、私は以前に食べた事がある。
それは勿論商売物ではなく、私の友達が作るオリジナルの「サワースープ」だ。
調理師免許を持つ程の腕を持ち、作る事と食べる事が好きな彼が作る料理は、
既成概念にとらわれない美味しい物。
最近はお互いに忙しく、彼の料理を味わうチャンスはもう随分訪れていないが、
今日、このスープを飲んで美味しい・・と感じた事で、昔の彼の味を思い出していた。
凄く繊細で気を使う彼は、普通の人より若干薄味が好きな私のためだけに、
よく酔っぱらいながら専用の味付けでそのスープを作ってくれた。
そのスープの優しかった事と爽やかだった事は、今も記憶の中に残っている。
てっきり彼のオリジナルだと思っていたのだが、デフォルトのメニューに載ったこの料理がある以上、
スープにお酢を合わせる美味しさに気づいて定番にする料理人は、まだまだ居るのかも知れない。
何だかその味は、友達の心遣いの思い出と美味しさと懐かしさが混じった、素敵過ぎる味に感じられた。
最近、アイツの料理食ってないな・・・・・
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